名誉をあまり大事にし過ぎないこと。環境の最適化を考えること。 だって『しょせん他人事ですから』

 『しょせん他人事ですから』(著/左藤真通、 富士屋カツヒト、清水陽平  白泉社)1巻は、ネットでの誹謗中傷が問題視されている今を描いた内容です。


 非常に印象的だったのは、以下のセリフです。
「この日本において 名誉の価値は低い のです」


 これが、日本の裁判における一つの現実なのでしょう。著者の一人である清水陽平氏(アマゾンでは著者になっていたが、おそらく監修)は、弁護士です。
https://twitter.com/shimziu_alcien


めい‐よ【名誉】
 [1] 〘名〙
① (形動) 人の才能や特定の技能などに関するすぐれた評判。よい評判を得ていること。また、そのさま。
② (形動) 事の善悪にかかわりなく、評判の高いこと。程度のはなはだしいこと。また、そのさま。
③ (━する) 評判になること。名声を博すること。また、そのようなはたらき。
④ 個人、または集団の人格に対して、社会的に承認された価値。また、それに対する自覚。体面。面目。
⑤ 地位や職名を表わす語に冠して用い、その人に敬意を表し、また、その功労をたたえるために贈られる称号とする。「名誉市民」「名誉教授」など。
⑥ (形動) 世にまれなこと。奇特なこと。不思議なこと。また、そのさま。めいよう。めんよ。めんよう。
[2] 〘副〙
 (⑥から転じて) 事態がよく理解できなくて、いぶかるさまを表わす語。どういうわけか。不思議に。奇妙に。めいよう。

 国語辞典の解説を読むと、名誉≒評判。それは物差しで測れるものはなく、個人差も大きく、実は自意識だったりもします。○円と数値化して損害を把握できないところから、「名誉の価値は低い」という結果になるのかもしれません。

 さらには、当人の問題という点もあります。
 例えば、私がAさんのグループでは評価が低く(名誉が傷つけられる)、Bさんのグループでは評価が高い(名誉が保てる)のならば、Aさんのグループから離れればよいだけのこと。当人によって「名誉が保てる」「名誉が傷つけられる」心理状態が選べる状況にあるわけです。これが環境の最適化
 そして、家庭が円満ならば、誹謗中傷の多いネット社会から去ることも大切(ネットは依存気味になりやすいので要注意)。

 また、Aさんに対して「名誉毀損だ!」と非難したところで、Aさんは私の評価を変えることなどないでしょう。他人を変えようとしても、無駄なのです。これはマンガのタイトル『しょせん他人事ですから』にも通じるところがあります。


 『しょせん他人事ですから』1巻では、主婦ブロガーの桐原こずえが、ブログのコメント欄が炎上している上、まとめサイトには「人妻風俗」などと事実無根の書き込みとともに携帯電話の番号まで載せられているという事態に。

 桐原は、相談するために弁護士、安田理の元を訪れます。安田の事務所には「他人事」という掛け軸が壁に。
 涙を流す桐原に「無料相談は時間が短いので勿体ないです」「簡潔にかつ具体的にお願いします」と伝える安田。


 そして2つの選択肢を示します。
○削除申請 書き込みなどを消す
○情報開示請求 書き込んだ相手を特定する
 「人妻風俗」などと事実無根の書き込み(偽りの事実摘示)は名誉毀損に相当。ただ、それで情報開示請求を行うことについて、「金がかかり 時間がかかり 何より自分の精神が削られる」「しんどいんですよ」「かかる費用については慰謝料含めた賠償額と比べてもせいぜいトントン…」と安田は説明します。


 桐原はいろいろ考えた上、情報開示請求を希望します。安田は「なんだかんだ100万は見といた方がいいですね」と話していました。

 興味深いのは、情報開示請求での裁判の進め方。
 なんと、第1回口頭弁論で、裁判官は「原告は訴状の通り陳述という事でよろしいですか?」、安田「はい」、相手方の弁護士「答弁書」という書類のやり取りで終了すること。たったの5分。
 第2回口頭弁論も、安田が準備書面を相手方の弁護士に渡すだけで、5分で終了。
 そして次回(3回)が判決という早さ。

 

 情報開示請求が通ったところ、悪質な書き込みをしたのが同じマンションに住むママ友だったと判明。

 そして安田は3つの選択肢を示します。
○内容証明郵便 和解を目指す メリット1 とにかく早い メリット2 条件が有利になる
○民事裁判
○刑事告訴
 そしていきなり民事裁判を行うのは勧めません。「犯人特定にかかった費用や慰謝料を合わせて300万円請求したとしましょう」「でも裁判例から考えるに取れて100万位…まぁ60~80万位がよくあるケースですね」という現実を教えるのです。
 その後については、実際に漫画を読んでいただくとして……


 私が印象に残ったセリフを保存しておきます。

○事実確認はしっかりしておかないとダメ
 冷静さを失うと、事実と自分の妄想がゴチャゴチャになってしまうことは珍しくありません。現実には何が起こっていて、何が実害なのか、整理することは大切ですね。

○ネット見なきゃ平和
○まだ見てたんですか? マゾなんですか?
 これは桐原の夫と安田のセリフです。本人が一つのことにのめり込み過ぎると、周囲とのバランスが取れなくなるリスクが高くなりますね。

○暇人に付き合う必要ないでしょう ハッキリ言って時間と気力の無駄 ストレスを感じる場所がわかってるんですからまず断ちましょう 環境の最適化を考えてください。
 上記のセリフに続いて、安田が桐原にかけた言葉です。

○結局、どうしたんですか
 「自分は何を求めているのか」は見失わないようにしておきたいところ。

■民事訴訟と刑事訴訟

 民事では、人、会社(法人)などの私人の間で、権利関係に関する紛争がある場合に、裁判所に訴えを起こします。手続については、民事訴訟法が規定しています。
 刑事では、訴えを起こすのは警察か検察。そして、検察官が事務を行い、裁判が行われます。手続については、刑事訴訟法が規定しています。

 民事事件は、私人である当事者同士だけの話になりますが、刑事事件は公益が大いに関係するようです。

 検察官は、公益の代表者として法令に定められた事務を行うとのこと(刑事訴訟法第247条)。
「公」となると、話はかなり複雑になりそうです。小さな事件に見えていたが、公共の利益に関係していると捜査の中でわかったら、個々の利益よりも公共の利益のほうが優先される可能性も高そうです。

○刑事事件のパターン


 刑事事件の捜査のきっかけは、現行犯逮捕や通報、自主などのほかに、以下の3つがあります。

1 告訴 犯罪の被害者などが警察に対し、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をする
※告訴できるのは、犯罪の被害者や法定代理人、被害者が死亡したときにおける配偶者など、刑事訴訟法に定められた人だけに限られる
※被害者が告訴状を提出しても、警察は必ず受理するとは限らない
2 告発 第三者が警察に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をする
3 被害届 犯罪の被害者が捜査機関に対し、被害に遭った旨を申告することで、加害者への処罰意思は含まれない

○捜査


検察の捜査が始まるのは、以下の4パターンに大別されます。
1 警察からの事件送致  警察から「刑事事件なので、起訴するかどうか判断してください」と検察に送られてくる
2 直受  警察を経由せずに、検察官が直接、告訴・告発・自首・請求を受ける
3 認知     検察官が自ら犯罪を探知して捜査に着手する
4 再起  不起訴処分や中止処分にした事件を、再び捜査する

 事件の捜査では、警察官が中心となって、犯罪に関係する証拠などを集めます。検察官が捜査することもありますが、かなりレアケース。検察官が捜査するのは、特殊な刑事事件、政界や有名企業での汚職などに限定されているようです。
起訴するかどうかの決定は、検察官が行います。

○不起訴


以下の4つケースがあります。
1 訴訟条件を欠く場合   被疑者が死亡したとき、親告罪について告訴が取り消されたとき
2 被疑事件が罪とならない場合  被疑者が犯罪時14歳に満たないとき、被疑者が犯罪時心神喪失であったときなど
3 犯罪の嫌疑がない場合  被疑者が人違いであることが明白になったとき、被疑者がその行為者であるかどうかや被疑者の行為が犯罪に当たるかどうかで認定すべき証拠がないことが明白になったとき、これらを認定すべき証拠が不十分なとき
4 起訴猶予  被疑事実が明白な場合に被疑者の性格・年齢・境遇・犯罪の軽重・情状・犯罪後の状況で訴追を必要としないとき

○起訴


起訴された被疑者は「被告人」となります、以下のうち、いずれかの請求が行われます。
1 公判請求 事件を裁判所に起訴する(起訴してから初公判が開かれるまで1カ月程度かかる)
2 略式命令請求 書類審査で刑(罰金・科料のみ)が言い渡される
3 即決裁判請求 申立てがあった日から2週間以内に初公判が開かれる(現在は行われていないとのこと)

○裁判


 検察官は裁判所に証拠を提出したり、証人尋問などを行ったりして、被告人が犯罪を行ったことなどを証明します(証拠調べ)。
 証拠調べの後で、求刑を含む論告を行います。
 裁判確定後は、懲役刑や罰金刑などが正当に執行されるように執行機関に対して指揮などをするとのこと。

 検察官については、裁判所のサイトで以下のように説明されていました。
検事総長,次長検事,検事長,検事及び副検事に区分されます。このうち,検事総長,次長検事及び検事長は,内閣が任免し,天皇が認証することとなっています。
 おそらく、一般市民の私たちが検事総長・次長検事・検事長と接触する機会はないでしょう。






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