合成界面活性剤について、改めて調べてみた 

 界面活性剤は、1つの分子の中に、水になじみやすい親水基と、油になじみやすい親油基(疎水基)がある物質の総称です。水と油のように本来は混じり合わないものを、界面活性剤が界面(物質の境の面)に作用して、混ぜ合わせることができるのです。


 界面活性剤には、主に次の作用があります。
①浸透湿潤作用
表面張力と界面張力を下げて、ものを濡らしやすく、染み込みやすくする
②乳化作用
油を水に散らばらせて、混じり合った状態に保つ
③分散作用
スス(固体粒子)などをバラバラにして、水中に分散した状態に保つ
④起泡作用
泡を立たせる
⑤再汚染防止作用
水中に分散した汚れが再び繊維などに付着するのを防ぐ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/1/4/1_403/_pdf/-char/en より


 また、界面活性剤は4つに大別されます。
①アニオン界面活性剤 :水に溶けたときに、親水基がマイナスの電荷を持つ
○カルボン酸塩(脂肪酸塩) 
 天然の牛脂やヤシ油、パーム油などが原料。洗浄力、泡立ちと泡の安定性に優れているため、身体洗浄剤に使われています。
○スルホン酸塩(アルキルベンゼンスルホン酸塩〈ABS、LAS〉、α-オレフィンスルホン酸塩〈AOS〉)
 灯油から抽出したノルマルパラフィンなどが原料。LASは、洗濯用洗剤に使われていることが多く、洗浄力、浸透力に優れ、水の溶解性や気泡性、適度な泡安定性があります。価格も低いことから家庭用合成洗剤などに、大量に使用。
○硫酸エステル塩(高級アルコール硫酸エステル塩〈AS〉、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩〈AES〉)
 高級アルコールが原料。台所用洗剤やシャンプーによく使われています。
○リン酸エステル塩(アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム〈ラウレス硫酸ナトリウム〉)
 高級アルコールが原料。溶解性や洗浄性が優れ、硬水に対しても使用できる。家庭用や工業用の各種洗浄剤として使用されています。
〈主な用途〉
 衣料用洗剤、シャンプー、ボディソープ

②カチオン界面活性剤(「逆性石けん」) :水に溶けたときに、親水基がプラスの電荷を持つ
脂肪族4級アンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩
〈主な用途〉
 ヘアリンス、衣料用柔軟剤、殺菌剤
※一般に毒性が高く、配合量にも制限がある
※両性界面活性剤を配合すると、起泡力が高まり、皮膚への刺激が低下する

③両性界面活性剤 :水に溶けたときに、マイナスとプラスの両方の電荷を持つ
アルキルカルボキシベタイン、アルキルアミノ脂肪酸塩
〈主な用途〉
シャンプー、ボディソープ、台所洗剤

④ノニオン(非イオン)界面活性剤 :水に溶けたときに、親水基がイオンに解離しない
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル
 イオン性がないため、タンパク質と結合しにくく、皮膚を傷めにくい傾向があります。
〈主な用途〉
衣料用洗剤、乳化・可溶化剤、分散剤、金属加工油
※食品の乳化剤としても使われている
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/1/4/1_403/_pdf/-char/en より


 合成界面活性剤を使用した洗剤については、これまでに下記の問題が取りざたされてきたと、横浜国立大学大学院環境情報研究院の大矢勝教授は指摘していました。
http://www.detergent.jp/oya/x006.html

○対策済み

①ABSの発泡問題

 ABS(分枝鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩)という界面活性剤は、微生物によって分解されにくく、いつまでも界面活性を保ちます。そのため、ABSを含む洗剤を使った下水によって、下水処理場や河川の水が泡立ってしまったのです。
 ABSを改良したものが、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)です。

②リンによる富栄養化問題

 合成洗剤の性能を向上させるために「助剤」が使われます。助剤には、トリポリリン酸ナトリウム(STP)などの縮合リン酸塩があります。このリン分が河川や湖沼に流れ込むと、植物プランクトンや藻類が増殖して、汚い緑色の水になりました。そこで、洗剤の無リン化が進みました。

③APEの環境ホルモン問題

 環境ホルモン(外因性内分泌かく乱化学物質)とは、環境の中にあって、生物のホルモン作用を乱す物質です。環境ホルモンの影響で魚がメス化するなどの報道がありました。有名なのはPCB(ポリ塩化ビフェニル)です。
 そして、界面活性剤のAPE(アルキルフェノールエトキシレート、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル)で、環境ホルモン問題が生じました。
 APEが河川などの微生物によって分解される際に、AP(アルキルフェノール)が生じます。APEは、生分解性も比較的悪く、主として工業用洗剤に用いられてきました。環境ホルモン問題をきっかけに、世界中で使用が制限されつつあります。

※生分解性とは、微生物の働きによって分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素と水となって自然界へと循環していく性質

○環境に対する影響

①生分解性が低い

 合成洗剤に含まれる界面活性剤は、環境中に排出される合成化学物質として許容されるレベルです。
 また、合成界面活性剤にはさまざまな種類があります。そのため、生分解速度が石けんと同じ程度のものもあれば、遅いものもあります。
 石けんは水の中のミネラル(カルシウムイオン、マグネシウムイオン)と結びつくと「金属石けん」になり、生分解速度が遅くなります。

②魚毒性が高い

 魚のえらに界面活性剤が付着すると、えらの機能が果たせなくなり、呼吸困難に陥って魚は死にます。

③下水処理場へ悪影響を及ぼす

 実験室レベルでの研究結果では、合成洗剤と石けんで下水処理に及ぼす影響に大きな違いは認められていないそうです。

○人体に対する影響

①体内に蓄積する

 界面活性剤は、体内に入っても速やかに排出されることが実験的に確認されています。
 APE(アルキルフェノールエトキシレート)を除いて、代謝の過程でほとんどの界面活性剤は毒性が急激に低下します。体内への蓄積性で問題視する必要はほとんどありません。

②皮膚を障害する

 皮膚洗浄料には3つのタイプがあります。
○石けんタイプ :脂肪酸塩を主体としたアルカリ性
※「石けん」は、界面活性剤である脂肪酸ナトリウム・脂肪酸カリウムのこと(固形・粉が脂肪酸ナトリウム、液体が脂肪酸カリウム)
○シンデットタイプ :合成界面活性剤を主体とした弱酸性
○コンビネーションタイプ :脂肪酸塩と合成界面活性剤を組み合わせた中性

 シンデットタイプは皮膚への浸透残留性が、石けんタイプに比べて極めて低いことがわかっています。また、金属石けんができないので、皮膚への吸着も少なくなります。
 また、角層水分保持因子であるNMF、そしてバリア機能は、重要な細胞間脂質がお湯に溶け出すのを防ぎます。
 皮膚洗浄料には、保湿剤など、スキンケアに使用される成分が配合されています。ただ、洗浄後にこれらの成分が有効な濃度で皮膚に残ることは考えにくいもの。保湿剤などは、界面活性剤の洗浄力を調整するために働いている可能性があります。
 合成洗剤は種類が多く、石けんよりも皮膚刺激性が強いものから弱いものまでさまざまです。アニオン界面活性剤の中でも、カルボン酸塩(脂肪酸塩)は皮膚に残留しやすいなどの研究結果がありました。

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 自然界の中に存在する界面活性剤は「天然由来」、石油などの原料で人工的に作られたものは「合成界面活性剤」と呼ばれています。
 天然由来の界面活性剤には、サポニン、レシチン、脂肪酸ナトリウムなどの天然成分を原料とする古典的な石けんがあります。

 天然由来と対比する形で、合成界面活性剤については、環境への影響、そして皮膚への影響が、ネット上でも取りざたされています。
 ただ、一口に「合成界面活性剤」といっても、種類は多く、時代とともに使われるものも変わってきました。

 合成界面活性剤に限らず、天然由来の界面活性剤やその他の物質についても、使い過ぎが問題を発生させるのではないでしょうか。
 例えば塩も、使い過ぎれば体調や皮膚に悪影響を及ぼすし、「塩害」として植物を枯らしてしまうこともあります。
 健康を保つには、イメージだけで決めつけないほうがよさそうです。



■参考資料
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