「ありのままの私で、自分に正直に、生きたいように生きよう」を謳うビジネスの共通点

「自分らしく、本音で生きよう」
「好きなことだけをやろう」
「自分を好きになろう」


 その後に続く言葉が……
「そうすれば、お金に愛される!」
「そうすれば、パートナーシップがうまくいく(異性に愛される)!」
「そうすれば、幸せになる!」
「そうすれば、運気が上がる!」


 そんな教義を掲げた、新興宗教にも似た情報商材・セミナーでビジネスを行っている"教祖様"たちがいました。
 興味深いことに、"教祖様"はおしなべて疲れて、以下のような苦しそうな生活を送っています。


○お金に困っている
○パートナーが離れていく(仮面夫婦的な関係になる)
○必死で幸せな振りをする
○お金を集めたり、パートナーの気を引いたりするために、忙しくて大変そうだ


 多くの場合、"教祖様"は「さぞかし満たされているのだろう」と思わせる暮らしぶりを撮影し、ネットにアップしています。
 都内の一等地、鎌倉などの人気スポット、壱岐や八ヶ岳などの自然豊かなリゾートで、張り付いた笑みを浮かべて自撮りした写真を多数見かけました。
 ときには、打ち合わせなどで忙しさを演出したり、札束などを見せびらかしたりすることも。



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https://www.photock.jp/detail/coin/6227/




 しかし実際は、なんとも言えない状況のようです。
 見栄っ張りなSNSと対比的な現実生活という裏情報も、ネット上に流れているからです。これでは、「本音で生きよう」どころではありません。


 "教祖様"は、仕事相手だけでなく知人・友人を含めて、根本的な人材不足に悩まされます。教義にかぶれて集まってくるのは、好きなことだけやりたい、言い換えると、責任感・忍耐力に欠けている、視野の狭い人たちだからです。

 新興宗教にも似た情報商材・セミナーハマる人々のほとんどが、「今の自分は"自分らしくない"自分だ」「だから、"自分らしい"何者かになりたい」と焦っているようです。

 問題は、"自分らしい"の根拠が薄っぺらいこと。言葉の数ばかり多くて、表層的。オリジナリティがないのです。

 情報商材にハマった中年女性Aさんについては、結婚して、子どもにも恵まれ、裕福そうに見えます。

 そんなAさんが、突然「世直しがしたい」とSNSで主張し始めました。そしてアップしている写真が、情報商材のテキスト。
 Aさんがハマった情報商材は「本当の経済的な豊かさとは何か」を扱っているようです。ありがちな「成功」を「成幸」と書いちゃう内容です。

 Aさんは毎日のようにSNSに写真をアップしていますが、写っているのは中年の男女で、服装その他がギラギラ・コテコテしています。メンバー数十人で情報商材屋のトップが所有するハワイの別荘に集まるなどして、お決まりのシャンパングラスの写真も。

 ちなみに、この情報商材屋のトップは、歯磨き粉やサプリを扱うマルチ商法(ネットワークビジネス)の上位会員だったとのこと。さもありなん。

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 この情報商材のグループにどっぷり漬かっていたら、「その他大勢(過去に所属していた一般社会)と私たちは、意識が違う」といった選民思想的感情を抱くと同時に、「"自分らしい"自分はこれだったんだ!」と、情報商材の内容がアイデンティティ化してしまうようです。
 金さえ払っていればグループの中に居続けられる楽な状況で、アイデンティティを確保できる、ぬるま湯状態。ですから、なかなか抜け出せないわけです。

 そのくせ、「その他大勢をこちらのグループに引き上げてあげる"カウンセリング""コーチング"で稼ぎたい」「世界を変えたい」などの文章をAさんはSNSに書いていました。

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 私は過去に、とある情報商材屋のグループの上位ポジションの人々と接する機会がありました。"シニア""エグゼクティブ"という、取ってつけたような肩書きがあるものの、ワンパターンな言葉遣い。

 服装その他の見た目を取り繕う技術、そして初対面でも相手を楽しませる話術には長けています。サービス精神も旺盛。
 しかし、長く話しているうちに、「どこかで聞いたことのある言葉ばかり……」など、会話自体がおもしろくなくなっていくわけです。当人だけテンションが高く、話し相手のこちらにしてみれば「会話が成立していないんだけど……」と不気味です。

 上位ポジションの人間でも、「自分たちが何を言いたいのか」「自分たちの使う言葉にどんな意味があるのか」があやふやです。しかし、それに気づかずに平気で会話をどんどん進めてしまうのです。
 大げさな表現の大安売り。

 おそらく、情報商材屋のグループの仲間内だけだったら、そんな会話で十分なのでしょう。そんなわけで、「グループの仲間はみんな理解できているのだから、理解できない人々は意識が低い」と勘違いをし、周囲をバカにします。

 こうしたグループ内には「仲間の発言を否定しない」という暗黙のルールが存在します。
 否定さえしなければ集団の中に居続けられる楽な状況で、 「自分はここに属している」という安心感が得られる、ぬるま湯状態。一種の依存です。

 周囲から見ると自己満足の極みなのですが、「社会のために」「地域のために」と言いつつ、"〇〇カウンセラー""〇〇コーチ"といった謎の職業を肩書きにして、なんとか小銭を稼ごうとしています。
 未経験・低スキルで、世の中の大半の人にとって価値がないことでも、必要としてくれる人にさえ出会えればビジネスとして成り立つことは、まれにあるのでしょう。

 今は不特定多数の人にオンラインでリーチできる、お手軽な時代です。その結果として、SNSには謎の職業を名乗って何者かになろうとする人々があふれかえることになりました。


 何者かになろうとする人々をネットで観察していると、基本的には思い付きで行動しています。
 プランニングの段階でも、相談するのは仲間内だけ。
 資金集めは、手っ取り早くクラウドファウンディング。
 「目標のために、バイトその他でコツコツ資金をためて、多角的に学んで」ということはありません。

 AさんがSNSに写真をアップしていた情報商材のテキストは、表紙だけ立派で、100ページにも満たない薄いものでした。このテキストをたった1冊"学んだ"だけで、ビジネスになると思い込んでいたようです。


 もう若くもなく、キャリアもない主婦だけど、何者かになるために一発逆転を狙って、ネットで情報商材を知り、扇動されて飛びついて、小遣いを巻き上げられているのでしょうか。

 しかし、当然、社会に通用する価値は提供できていません。通常ならば「こんなテキストを読んでもダメなのだ」と見切りをつけるところですが、そこは"教祖様"が上手で「もっとこのグループで勉強する必要があるのですよ」などとささやくのです。

 こうしたわけで、"教祖様"は、お手頃から超高額まで幅広い価格の情報商材などを用意し、できるだけ多くに人々にリーチすることに心を砕いているようです。
「何かを始めるのに遅すぎるということはない」「誰にでもチャレンジする権利はある」「バンジージャンプだ」などの宣伝文句を使っていました。

 何者かになりたい人々は、自分だけの趣味では嫌なのです。ビジネスとして、周囲に認められて成功したいのです。

 自分はカモにされているのに、周りの人間を啓発したいし、教えてあげたい。自分を認められたいくせに、なぜか常に上から目線です。

 そんなカモを相手に今日も”教祖”たちは、「ありのままの私で、自分に正直に、生きたいように生きよう」「自分らしく、本音で生きよう」「そうすれば、幸せになる!」とネットで連呼するのです。



 情報商材・偽スピ・マルチ商法などでは、「ありのままの私」「私らしい私」「私の本当にしたいこと」といった"ありがたいお言葉"がよく使われます。

 ただ、「ありのままの私」「私らしい私」「私の本当にしたいこと」を知るのは、実はとても難しく、時間がかかること。


 まず、「私とは何者か」「何をやってきたか」などを頭の中で一つずつ取り払い、自分自身を手放すプロセスが必要なようです。
 ですから、修験者は標高の高い山々を登ったり、滝に打たれたり、たくさんの修行をしてきたのでしょうね。


 「ありのままの私」については、本を読んで勉強して考えて、あるいは誰かに教えてもらって、わかるものではなさそうです。
体験でしかわからないようですが、その体験すら「思い込み」によるものかもしれません。


 ましてや、Twitterなどで見かけた"ありがたいお言葉"で、簡単・お手軽にわかった「ありのままの私」は表層的なのでインチキ。
 そして、理性を軽視して、思い付きや衝動で行動をしていまい、法律を無視して反社会的な人物になる可能性が高いでしょう。

 あるいは、情報商材・偽スピ・マルチ商法などの、わかりやすくて安直な"ありがたいお言葉"に揺り動かされ、カモにされるに違いありません。


 ある"教祖様"については、「私の本当にしたいこと」を実行しているはずが、右往左往して心の平穏をなくした人にしか見えません。そんな"教祖様"の思い付きや気まぐれを、周囲には「私の本当にしたいこと」と信じ込ませている印象です。


 また、"教祖様"はパフォーマンスだけは非常にうまく、現実にはありえないこと(ウソ)を求めている人に、その人たちが望む形でウソをパッケージ化して見せてあげることができるようです。


「あなたにとっての『ありのままの私』は、これだよ」
「あなたが本当にしたいことって、これだよ」


 実際はわかっていないにもかかわらず、「これだよ」と自信満々に提示して、相手を喜ばせると同時にコントロールしているのでしょう。



 資本主義の世の中で、「ありのままの私」についても早く効率的に知ってしまいたいと思ってしまうのでしょうが、その先に泥沼があるのは知っておきたいですね。


 情報商材・偽スピ・マルチ商法などには、共通するパターンがあるとわかったので、まとめました。


■対象


将来の不安を抱えている人
学生
副業をしたいサラリーマン
主婦
フリーランス


■勧誘するときの共通点


○「賢くて豊かな人生を送りたい」と願って努力していることを、ことさらアピールする
○「日本が危ない」「サラリーマンはやばい」と不安をあおる
○「自分らしく生きることでお金が稼げる」「やりたいことをやれば成功する」「失敗を恐れてはいけない」「成長しよう」と、やっぱりあおる
○セミナーなどでは「不幸な過去→脱却→現在の成功と幸せ」といったシンデレラストーリーが定番
○他者の「理解できない」という意見に対し、「まだこちらの世界を知らないからだ」「それが今のあなたの限界」「あなたのほうが遅れている」と対応する
○シングルマザーだったり、不登校児を抱えている家庭だったり、厳しい状況の人が引き寄せられている(現実逃避的)
○家族や友人などプライベートの部分までネタとしてさらけ出している
○ときどきアートっぽいことをしたがる

□情報商材の共通点


○稼ぎ方を教えることで自分が儲ける
○「脱社畜」「スキルシェア」「インフルエンサー」が頻出ワード
○うさん臭い商品(投資、健康、美容など)を紹介している
○オンラインサロンを運営している

□ネット乞食


○クラウドファンディングなどを頻繁に利用
○「プロ乞食」とも呼ばれている
○クラウドファンディングで集めた資金を持ち逃げする


□作家もどき・顔出しマスコミ系の共通点


○本やサービスなどの商品が売れるのなら、良識なんてどうでもよい
○矛盾を指摘されたとしても理屈をこねくり回すだけで、そもそも良心がない


□偽スピ・"自然派"・マルチ商法の共通点


○イザナミなどやたら神様の名前を出したり、神社に行った写真をアップしたりする
○マヤ暦や数秘術などの占いを好む
○「気づき」「感謝」「波動」「直感」などが頻出ワード
○日本語が下手で、文章力がなく、繰り返しが多い

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