こういう「大人のなり方」もある『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(実際に引きこもっていたのは千葉県市川市)
『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』。書名があまりに長いので、以下、『千葉ルー』と省略します。
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| 『千葉ルー』 |
読み手が置かれている状況によって、受け止め方がかなり変わってくる一冊です。強く共感して一気に読み終える人もいれば、最初の数ページで「この文体は騒がし過ぎて、自分には読めない……」と本を閉じる人もいることでしょう。
それにしても、自伝というか、エッセイというか、どのカテゴリーに入れられるのでしょうね、この文章は。帯には「ノンフィクションエッセイ」と書かれています。
ただ、文体が苦手でも共感ができなくても、いや、共感できない人ほど、『千葉ルー』を斜め読みしてもらって、感想を聞かせてほしいと思ってしまったのです。
『クラナリ』編集人は著者の親世代で、現在進行形で子育てをしています。そのため、著者は30過ぎの男性ですが、つい親目線でこの本を読んでしまいました。
また、小学校高学年になっても句読点が打てない子どもに、作文を教えていた時期も過去にはありました。
そんな経験もあって、『千葉ルー』を読んだ後に思ったのです。「大人になるまでに、いろいろなルートがあるよね」と。つい思い出したのは、村上春樹氏が唱えている「30歳成人説」。
学校にも社会にも、なんとなく"既定路線"がありますよね。
小学1年生で足し算と引き算ができるようになって、2年生になったら九九を覚え、3年生になったら小数を理解して……
18歳で成人して、高校や大学を卒業したら就職して、独り暮らしをして、30歳ぐらいになったら結婚をして……
"既定路線"にうまく乗れないと、落ちこぼれか外れ者。
結果として、学校に行けなくなったり、部屋に閉じこもったりしてしまった例を見聞きしてきました。
その点では、筆者の「千葉(というか市川市)に引きこもり」も、現実としてあり得る話です。
しかし。
子ども部屋(勝手に6畳を想像)にこもっている中で膨満したエネルギーを、筆者は語学という学びに集中させていったのです。その熱量たるや!
さらには「その国に行かずしてルーマニア語の小説家になっている」というところで、胸がスーッとするというか、ちょっとしたカタルシスが得られます。
こうしたことから、自分あるいは家族が"当たり前"の"既定路線"から外れてしまった人には、『千葉ルー』を一読してほしいと思ってしまったわけです。
また、著者は腸の難病であるクローン病(※1)に罹患しています。
『クラナリ』編集人も、腸の病気にかかったことがありました(難病ではありません)。臭く、汚く、悲しい病気だと思います。トイレがなければ不安なので、絶えずトイレの存在を意識しながら行動しなければなりません。トイレによって自由が制限されるのです。離陸と着陸でベルト着用を求められる飛行機に乗ることなど、恐怖以外の何物でもありません。
著者は千葉(市川市)にいながらにして、ルーマニア文壇にデビューできたにもかかわらず、そして成田空港がある県に住んでいるにもかかわらず、クローン病で飛行機に乗れない。というより、自宅から半径2キロ以内の図書館やコルトンプラザしか行けない状況は、20代だった著者にとっては地獄としかいえないでしょう。
『千葉ルー』の端々から悲壮感がにじみ出てはいます。
しかし。
読み終えた後は、なんだかサバサバとした、晴れやかな気分になれるのです。これには、自意識とクセの強さが効いているのかなと。
重要なのはどこにいるかじゃない。俺たちが今そこにいること、これ以上に価値のあることはない。だから俺にとっては、他でもない今にそこに立ってるアンタこそが未来だ。やってやれよ、おい!
そんなわけで、次の人にも本著をお勧めします。
○これから語学を学ぼうとする人に
○引きこもり(≠ひきこもり ※2)の子どもたちに
○引きこもり(≠ひきこもり)の子どもを持つ親たちに
○長期休暇が明ける前に、なんとなく絶望を感じてしまった人たちに
ルーマニアに行けなくてもルーマニア語の小説家になれるし
子ども部屋に引きこもっていても学ぶことはできるし
低すぎる自己肯定感と肥大化した自尊心・エゴイズム・ナルシシズムを持て余していても、映画・SNS・本などと突破口は存在するし
今、絶望を感じていても、次に来る展開はわからないし……
以上のように共感とは別の側面で読んでしまったこともあり、『千葉ルー』をどのように受け止めたか、幅広い世代の人に聞いてみたい気がしています。
ちなみに、文中に出てきた「小学校高学年になっても句読点が打てない子ども」は、中学で国語の偏差値が75になりました。「俺カッケェ」。
※1 クローン病
1. 概要本疾患は原因不明で、主として若年者にみられ、潰瘍や線維化を伴う肉芽腫性炎症性病変からなり、消化管のどの部位にも起こりうる。消化管以外(特に皮膚)にも病変が起こることがある。原著では回腸末端を侵す(回腸末端炎)と記載されたが、その後口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に起こりうることがわかった。臨床像は病変の部位や範囲によって多彩である。発熱、栄養障害、貧血などの全身症状や関節炎、虹彩炎、肝障害などの全身性合併症がおこりうる。2.原因原因は不明。現在のところ遺伝的因子、環境因子(ウイルスや細菌などの微生物感染、腸内細菌叢の変化、食餌性抗原など)などが複雑に関与し、免疫系の異常反応が生じていると考えられている。3.症状腹痛、下痢、体重減少、発熱、肛門病変などがよくみられる症状である。ときに虫垂炎に類似の症状、腸閉塞、腸穿孔、大出血で発症する。また、腹部症状を欠き、肛門病変や発熱で発症することもある。腸管外合併症として貧血、末梢関節痛炎、強直性脊椎炎、口腔内アフタ、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)、虹彩炎、成長障害などがあり、長期経過例では腸管悪性腫瘍が問題となる。
※2 ひきこもり
様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)
「ふだんどのくらい外出しますか」という設問に対し、①自室からほとんど出ない 、②自室からは出るが、家からは出ない、③近所のコンビニなどには出かける、④趣味の用事のときだけ外出する、のいずれかを回答し、かつ、その状態となって6か月以上経つと回答した者を「広義のひきこもり群」と定義。(①~③が狭義のひきこもり群、④が準ひきこもり群)

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