「おひとりさま」は、今は何を指しているのか問題

 「おひとりさま」といえば、上野千鶴子さん。「おひとりさま」がタイトルに入った著作が多数あり、一部では“おひとりさまの教祖”と呼ばれているようです。
 『おひとりさまの老後』(法研)などの「おひとりさま」は、本の内容から、一人暮らしを指していると考えられます。ただ、上野千鶴子さんはフェミニストとして有名な社会学者のため、おひとりさまも女性の一人暮らしを指しているイメージが持たれがちです。『おひとりさまの老後』についても、「非婚女性のために書いた」と上野千鶴子さんはインタビューで語っていました。



 ちなみに、NHK教育テレビで放送されているETV特集の「おひとりさま  笑って生きて、笑って死にたい」、そして『週刊ダイヤモンド』2022年7月16日・23日合併号の「ひとり終活大全」特集では、タイトル・記事中の「おひとりさま」は一人暮らしを指していました。男女は問いません。

ずっと未婚、配偶者と死に別れ、子供は最初からいないか、成人して遠くに行ってしまった――。最後はみんな“おひとりさま”。

 つまりは「おひとりさま=一人暮らし」。
 言葉としては一人暮らしのほうがわかりやすいと思うのですが、本や番組のタイトルは『一人暮らしの老後』「一人暮らし  笑って生きて、笑って死にたい」とはなっていません。一人暮らしよりも「おひとりさま」のほうが受けがよいという判断なのでしょうか。

 現在、書名や番組名などで盛んに使われている「おひとりさま」。デジタル大辞泉(小学館)では以下のように解説されています。
 
おひとり‐さま【▽御一人様】 の解説
「一人」を敬って、また丁寧にいう語。おひとかた。

[補説]飲食店などで一人客を指していうことから、近年、「遊園地などグループ利用の多い施設を、一人で利用して楽しむ人」「精神的に自立しており、一人で行動できる人」「未婚または配偶者との別離により、一人で生活している人」など、さまざまな意味で用いられている。


 そもそも一人客を指す「おひとりさま」という言葉。
 これに、敏感に反応したと思われるのが岩下久美子さんです。2001年刊行の『おひとりさま』(中央公論新社)の著者で、おそらく、本のタイトルに「おひとりさま」を初めて使った人です。

 市川市立図書館のサイトでは、『おひとりさま』について以下のように説明されています。

「おひとりさま」とは、「個」の確立ができている大人の女性。仕事も恋もサクセスするために身につけるべき生き方の哲学。「ひとりの時間」を大切にする現代女性のために。01年9月に急逝した著者のエッセイ。  

 「仕事も恋もサクセス」ですか。な、なるほど……。

 2001年に『おひとりさま』が刊行された当時は、「女性が一人でレストランで食事してもいいじゃないか!」「女性が一人でホテルに泊まってもいいじゃないか!」「別に一人だって恥ずかしくないし、肩身の狭い思いをする必要はない!」という文脈で、「おひとりさま」という言葉が女性の一人客に限定して使われていたと推測できます。

 それが高齢化社会で一人暮らしの老人が増え、「独居」「孤老」をマイルドに表現する言葉として「おひとりさま」がメディアで使われるようになったのでしょう。
 女性のほうが長生きということもあり、「おひとりさま」人口は女性の割合が高くなっています。総務省統計局のデータだと、65歳以上男性の8人に1人、65歳以上女性の5人に1人が一人暮らしです。

 2001年頃は女性が一人で外食や宿泊をすることが注目を浴びたようですが、2023年になると女性が一人で自宅で最期まで暮らし続けられるかに興味の対象が移っています。まさに、時代の変化です。

 「おひとりさま」には、次のタイプが挙げられます。
①一人っ子で未婚。両親は他界した。 ←元同僚
②きょうだいがいて、未婚。親戚とは離れて暮らしている。 ←叔母
③配偶者に先立たれ、子どもはいない。親戚とは離れて暮らしている。 ←遠い親戚
④離婚をし、子どもはいないか、音信不通。親戚とは離れて暮らしている。
⑤離婚をし、子どもとは別居。親戚とは離れて暮らしている。 ←叔母
⑥配偶者に先立たれ、子どもとは別居。親戚とも離れて暮らしている。 ←母(故人)
⑦配偶者に先立たれ、子どもはいるが親子関係が破綻。親戚とは離れて暮らしている。 ←ある本の中で紹介されていた例

 これまでの日本では、病気などで自立した生活を送れなくなった高齢者は、家族や親戚が支援したり、面倒を見たりするのが当たり前とされてきました。
 しかし、これも時代の変化で、支援してくれる家族や親戚がいない、または、家族や親戚には頼りたくない・頼れないケースが増えてきました。

 同時に、超高齢化社会で、人生の質や生き方も問われるようになっています。
 誰でも年を取れば、筋肉も内臓も、免疫力も精神力も衰えます。東京都健康長寿医療センター研究所によると、65歳以上の約16%が認知症であると推計されているとのこと。
 長く生きれば、認知症になるし、がんなどの病気にもかかりやすくなるのが自然の摂理。

 超高齢化社会を生きる私たちは、自分の頭や体がうまく働かなくなる前に、死生観を持ち、家族がいれば共有し、いなければ誰にでも伝わるように文章などでまとめて財布に入れておいたほうがよさそうです。「自分の頭や体がうまく働かなくなる」年齢の目安が、65歳だといえます。

 Twitterで以下の投稿がありました(アカウントが消えていて、このTweetも見られなくなっています)。

高齢者の延命治療をあたかも医師が金儲けのために嬉々としてやってるかのようなツイートを度々見かけますが、救急現場の感覚としては正直「何も分かってない」としか言いようがない。勤務医は何例患者さんを診ても給与は同じです。多くのご家族は死生観を持たず90過ぎの親が急に倒れても方針を決められない、その状況でゆっくりご説明してる時間は取れないし、まだ到着しない親戚にまで気を回して、訴えられないようにまずは救命になるのです。
延命治療の怒りの矛先を医療者に向ける時点で的外れも甚だしいのでやめて頂きたい。

人は必ず死ぬんです。やるべきは死の話、臨終の話を忌み嫌うこと無く国民皆んなでしっかりと話し合うこととACPの早期浸透であり、矛盾を感じながら痩せ細った身体に心臓マッサージをする医師を非難することでは無い。

 『クラナリ』編集人の調べた範囲での話ですが、医療関係者は臓器などの老化を、日々の仕事の中で現実として受け止めているせいか、終末期についても具体的に考えている印象を抱きました。
 老化や死を受け止められていないのが、私たち一般人です。

 老化や死については、上に挙げた①~⑦の「おひとりさま」で、①~④の場合、自分自身だけの問題となるわけですが、⑤~⑦はちょっと厄介。家族が絡むからです。
 

 2001年頃の「仕事も恋もサクセス」とは大きく様変わりして、「どのように人間関係を築いてきたのか」「率直に自分の思いを伝えられる関係にあるのか」「好き勝手にやったせいで修復できない関係だから、そのまま人生を突っ切るのか」が「おひとりさま」問題だといえそうです。
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