バーナード・マドフはどうしてポンジ・スキームをやめなかったのか 3 結局、学んでなかった 『バーナード マドフ事件 アメリカ巨大金融詐欺の全容』
マドフのねずみ講の被害者たちは、個人投資家、機関投資家を問わず、何かを失うことを極度に恐れていた。私たちは誰か、素晴らしいものを持っている人たちの行動の真似をする傾向がある。それは『裸の王様症候群』と呼ばれている。私たちは他の人たちの行動を見て、何の疑問も持たずに真似る。その結果、多くの人間が勝ち馬に乗る『バンドワゴン効果』が生まれる。社会からの圧力が強くなればなるほど、人間は騙されやすくなる。マドフの事件に関して言えば、そこには強欲さと恐怖感のコンビネーションが見られる。ここで言う恐怖感とは、他の人々が金を儲けているのに、自分は大きなチャンスを伸ばしていると感じることだ
ディックの詐欺の手法は、マドフのねずみ講との間にいくつかの共通点を持っている。二人とも、複雑な書類の偽造を行っていた。マドフは投資家たちに対して、毎日嘘の収支報告書と実際には行っていない取引の記録を送付していたし、ディックは財産を何倍もあるかのごとく見せかけるための偽書類を濫発した。ディックとマドフは、自分たちの犯罪行為が破綻しそうになると、半狂乱になって、危機を回避しようとした。また、両者とも株式市場の下落によって破綻を迎えたことも共通している。
□ネズミ講の特徴
勧誘した親会員や本部に加入金を払って会員になり、それぞれの会員が2人以上の子会員を勧誘することで、会員がネズミ算式に増加していきます。
自分より後に参加した会員から入会金が送られ、会員が増えるほど収入も増えます。
ただし、会員が無限に増加し続けなければ、収入は得られません。
会員がまだ少なく、増加する余地のある時期に加入した会員だけが収入を得られるという仕組みです。
□ネズミ講の事件 天下一家の会・第一相互経済研究所
1967年、内村健一が熊本県甲佐町で「第一相互研究所」という看板を掲げ、当初「親しき友の会」というネズミ講を開始。
「4人の会員を勧誘することにより2080円が102万4000円になる」という触れ込みで会員募集を始めました。
2080円の内、1080円を本部に送金し、残りの1000円は本部が指定した会員に送金するというシステムです。
子会員が4人の孫会員を勧誘すると、6代目に1024人の会員ができます。
6代目の会員から1000円ずつ送金されてくるので、子ども会員は102万4000円が手に入ることになると説明しました。
1972年5月に、内村健一は社団法人「天下一家の会」を設立。
以来、熊本国税庁は天下一家の会への入会金は、内村健一の個人収入でなく、みなし法人としての法人税を課しました。
内村健一は「国が認知したネズミ講」としてPRを開始。
1977年12月に財団法人の認可を抹消されるまで「財団法人天下一家の会」としてPRが続けられました。
1973年3月、熊本地検が内村健一への詐欺罪による起訴を断念。
1973年11月には「宗教法人大観宮」が設立され、以来、さらにネズミ講が拡大しました。
天下一家の会は拡大を続け、1976年には100万人を超える人が参加し、ピークを迎えます。
内村健一の収入は全国高額所得者番付の39位にランクされ、2億7770万円に達しました。
天下一家の会には、「思想普及員」と呼ばれる3000名の勧誘員がいました。
友人、知人の口コミで集められた場所に思想普及員が派遣されました。
思想普及員が新規会員を入会させると、本部に送金される入会金の20%が勧誘手数料として与えられました。
勧誘実績があがれば、順次、昇格しました。
思想普及員になるためには研修を受けるのですが、その内容は「心」「和」「助け合い」の3つ。
天下一家の会は、入会金の一部だけを本部が受け取り、残りの大部分は見知らぬ会員へ送金させました。
そのため、トラブルが発生しても、本部や勧誘員に会員は苦情が言いにくい状態でした。
天下一家の会はトラブルが起こると、いつも以下の文面を苦情元へ送付していました。
「前略、本会は先輩会員に贈与して、入会金を本会に送金する義務を果たして会員となり、 2人の子会員を加入させる権利を有することになります。このルールを守ること が天下一家の会の助け合いの基となっています。このことを充分に知っていただかないと困ることになります。先輩会員への送金はあくまでも贈与です。いろいろの事情で借金までして、贈与されたことに無理があったと思います。加入申し込みをされて会員台帳に記載されますと、名義変更以外は脱会できないことになっています。よって、これはあくまでもルールに基づいた親子会員協力して新会員の勧誘をなされるか、または名義変更の方法をお取りになるかご検討の上、よろしくお願いいたします。」
1978年3月、長野地裁が天下一家の会を民法第90条「公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす」に抵触するものと判断。
その契約は無効と判決を下しました。
そして被告内村健一に対して、原告被害者520人に2287万円を支払うよう命じました。
1979年、ネズミ講の全面禁止法(「無限連鎖講防止法」)制定。
天下一家の会は停止宣言を出しそのまま消滅。
1980年、内村健一は約1896億円の債務を抱えて破産しました。
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