具合が悪いところ、痛いところ、疲れたところ、こわばったところに、そっと手を当てる「愉気」

 野口整体を学んでいる人に多数取材してきましたが、最も印象に残っているのが天谷保子さんです。天谷さんには著作もあります。

 天谷さんには、野口整体の「愉気」についてお話を聞きました。

 まず、「愉気」の「気」ですが、これを言葉で説明するのは難しく、「生命活動そのもの」と表現すればいいのでしょうか。食べ物を消化する、血液を巡らせる……すべてが気の力で引き起こされています。
 説明するのは難しいけれど、誰でも知らないうちに気を使っています。おなかが痛いときに思わず手でおなかを押さえるのは、手から出る気に、痛みを和らげる力があることを体が知っているからです。

 無意識に痛い場所に手を当てる手当てを、少し意識的に行うのが愉気だと、天谷さんは話していました。
 「具合が悪いところ、痛いところ、疲れたところ、こわばったところに愉気をすることで、温かくなって、じわっと汗ばんできます。そして、気が流れるようになって、体が自然に回復していくのです」

 愉気をするときは、「治そう」「心配だ」などと思わずに、ただ無心で手を当てることが大切なのだそうです。
 無心になるには、息を吐く、息を吸うに意識を向けて、自分の呼吸にしっかりと集中すること。
 「痛むひざに愉気をしていたら、手がいつの間にか足首に動いていた」というように、愉気をしていると手が動きだすことがあるのだそうです。こういうときは、手が動いた先に原因があるので、そのまま愉気を続けるとのこと。

 天野さんは、中川李枝子さん作の児童書『いやいやえん』に登場するはるのはるこ先生のモデルです。実際に保育園の園長を務めていたので、子どもたちの体になにかあれば、まず愉気を行っていたのだそうです。

 気は、特別な能力だとか、神がかりだとか、そんな不思議なものではありません。誰もが持っている気の働きに任せていれば、体を回復する力が引き出されます。
 ですから、治してやる、治ってほしいという欲があっては発揮されません。それに、疑いや不安、心配があるときも、うまく回復できないものです。
 今の便利な時代では、たくさんの情報が簡単に手に入ります。しかし、病気などの情報を集めれば集めるほど、不安や心配は膨れ上がってしまい、自分や周囲の人を注意深く観察したり、触れたりする時間もなくなっているのではないでしょうか。
 気の存在を認める・認めないはさておき、ときどきそっと自分の体に手を当てる時間を作るのもいいのかもしれません。

 最後に、天谷さんに教わった「合掌行気」と「愉気」を紹介します。なお、天谷さんは2015年に91歳で亡くなりました。

合掌行気

合掌行気で、自分の気を実感できるのだそうです。愉気の前に合掌行気を行うといいでしょう。

 正座をして、頭が上から糸でつられているような感じで、背すじを伸ばす。胸の前で両手のひらを軽く合わせ、体の力を抜き、軽く目を閉じる。
 鼻からゆっくりと息を吸い込み、鼻からゆっくりと吐く。
 鼻からゆっくりと吸った息が、下腹に入った後、手のひらから吐き出されるようにイメージしながら、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
※静かな場所で、呼吸に集中して行う
※手のひらに気が集まって、温かくなったり、ピリピリと感じたりするまで行う(5分くらい続けるのが目安)

愉気

 痛むところや調子の悪い場所に、手のひらをそっと当てる。
 軽く目を閉じた後、鼻からゆっくりと吸った息が、下腹に入った後、手のひらから吐き出されるようにイメージしながら、ゆっくりと呼吸を繰り返す 
※静かな場所で、呼吸に集中して行う
※手で触れた場所がじわっと汗ばむまで行う(5分くらい続けるのが目安)
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