『宗教の起源』ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード その2 人間は異なる生命体が集まった複合体

私たち人間も異なる生命体が集まった複合体だ。人間の遺伝子の大多数は、進化の過程でウイルスや単細胞生物が自らのゲノムを人間のゲノムにもぐりこませたもので、そうすることで人間の生殖能力に便乗して進化していったのだ。なかには生きた細胞にエネルギーを供給するミトコンドリアのように、多細胞生物の生命維持に不可欠になったものもある。つまり、協力によって個体が成功するのであり(適応度が高まる)、集団が個体の利益に反して成功するわけではないのだ。

 『宗教の起源』(白揚社)で、著者のロビン・ダンバーは、上のように述べていました。

 ちょっと、びっくりしませんか。
 「私は私という生命体で、一つだけの『個体』だよね??」と、多くの場合は思い込んでいるからです。物心ついたときから、私以外私じゃありませんからね。

 話はそれますが、腸内細菌などは、私たちの体にすみ着いている、一種の運命共同体です。数にして数兆個(諸説あり過ぎ)、重さにして1~2キロの腸内細菌が、食物繊維やタンパク質などの分解を行っています。
 要は、細菌というたくさんの生命体と共存して、私の生命は維持されているわけです。

 こうした細菌だけでなく、細胞レベルでも、異なる生命体が入り込んでいるようです。
細胞小器官(イラスト/おやすみん

 冒頭で引用した文章の「ミトコンドリア」は、細胞小器官です。20億~10億年前までは、別個に存在していた生命体が、ppap(ペンパイナッポーアッポーペン)のように合体して、上のイラストのような細胞小器官になりました。このことを初めて知ったときには「ええっ……」となんだかショックを受けた『クラナリ』編集人でした。私という生き物は、何なのだろうかと。

 どういう経緯で「人間は異なる生命体が集まった複合体」になっちゃのでしょうか?
 生物の誕生をおおざっぱに見ていこうと思ったら、結局、地球の誕生からたどることになりました。

地球の誕生


 「138億年前に宇宙は誕生した」といわれています。
 この説には、WMAP(ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機 Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)とプランクという2つの人工衛星のデータが関係しています。
 

  WMAPは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が2001年6月に打ち上げた宇宙探査機です。
 WMAPの宇宙最古の光である宇宙マイクロ波背景放射の測定を行いました。その結果、宇宙は今からおよそ137億年前に誕生したということが定説になりました。
 その後、2009年にESA(欧州宇宙機関)が打ち上げた宇宙望遠鏡プランクの観測から、宇宙誕生はそれより1億年前の138億年前であるという解析結果が2013年3月発表されました。

 こうして現在では、宇宙は138億年前に誕生したとされています。そして、誕生直後に、「インフレーション」と呼ばれる現象が起こったという説が提唱されています。
 このインフレーション理論によると、誕生直後に宇宙は急激に膨張したことになります。その過程で、宇宙は超高温の火の玉であるビッグバンになりました。
インフレーション理論(東京大学サイトより)


 
 ビッグバンは、物質や質量、そして、それらの相互作用である化学反応を生み出しました。物質のもとである素粒子の中のクォークが集まり、陽子や中性子となりました。その陽子や中性子が集まって、水素やヘリウムの原子核が次々と生み出されたのです。このときに生まれた原子核は、総数の約92%が水素、残り約8%がヘリウムでした。
ビッグバン(国立科学博物館サイトより)


 ビッグバンの余波は続き、宇宙に水素ガスやチリの渦巻が現れました。50億年前に、水素原子がぶつかってくっつき(融合)、ヘリウム原子に変わる「核融合」が起こりました。こうして強烈な光が生み出され、太陽ができたのです。太陽は、自ら光を発する恒星です。

 太陽系が生まれたのは46億年前です。太陽の周りにはたくさんの惑星が集まって、ぶつかり合いました。その度に惑星が大きくなっていきます。
 
 衝突した惑星には、鉄をはじめとする金属や岩石、また、水や二酸化炭素などが含まれていました。惑星の地表に小さな惑星が激突した瞬間、発生した熱で鉄や岩石は溶け、水は水蒸気になって二酸化炭素などとともに原始大気ができて、46億年前に地球も誕生しました
 
 厚く地表を覆った大気が、衝突で生じた熱を閉じ込めたので、地表は千数百℃以上にもなりました。そして、岩石は溶けて赤いマグマの海となり、地球は火の玉に変身していきます。
 やがて、地球への惑星の衝突が減ってくると、地表の温度が下がり始めました。大気に含まれる膨大な量の水蒸気が厚い雲となり、激しい雨になって地表に降り注ぎ、広大な海ができました。
 
 38億年前、地球の海の中で生物が誕生しました。太陽との程よい距離で、適度に暖かかったこと(ハビタブルゾーン(生存可能領域」)、化学反応でアミノ酸や核酸の元となる糖・塩基などの物質が生成されたことなどが関係しています。

 地球にいつ陸地ができたのかは、まだわかっていないようです。

最初の生物 


生物の定義:自己複製(自分のコピーを作る)、代謝、膜によって外界と分けられていること

 進化とは、変化と選択の繰り返しです。変化で多様なものができて、その場その場で生き延びられたもの、つまり選択されたものだけが残って、それ以外は死んだということです。死んだ生物は分解され、回り回って新しい生物の材料になります。このターンオーバーで、新しい種ができて、進化が加速するのです。
 進化には目的はなく、偶然の出来事です。それまでの遺伝情報に上書きされて変化するので、進化における変化は少しずつ起こります。

 では、最初の生物はどうやって生まれたのでしょうか?

 RNAが地球上の最初の生命システムであるという「RNAワールド」仮説が広く支持されているようです。 生物の遺伝情報(自己複製)はDNAが、代謝などはタンパク質が担っています。この2つの役割をRNAは持っているため、「RNAワールド」仮説が導き出されました。
 
 RNAは自己複製が可能で、自ら並び順を変える(長い分子を切って別の場所につなげたりするなど)自己編集の働きもあります。つまり、自分と同じものも、違うものも作り出す能力を持っています。
 RNAなどの物質が、「液滴」という表面張力でまとまった液体の塊を作ります。液滴の表面に膜ができて、外部のさまざまな化学反応と切り離す袋の役割を果たしました。袋の中でRNAなどがぐちゃぐちゃに混ざり合うと、リボソームのような、タンパク質を作る装置ができました。
 リボソームは、あらゆる生物の細胞の中に存在します。RNAの塩基配列からアミノ酸をつなげて、タンパク質を作る役割を果たします。

 
 RNAが不安定な分子であることから、安定したDNAで自己複製を行う生物が現れたのだと考えられています。
 DNA→RNA→タンパク質という順番で遺伝情報が伝達される流れを「セントラル・ドグマ」といいます。


原核生物の登場


 すべての細胞は、細胞膜で包まれています。
 明確な核を持たない細胞が原核細胞で、核はなくても遺伝情報は持っています。原核細胞で構成される生物が原核生物です。
 核を持つ細胞が真核細胞で、真核細胞で構成される生物が真核生物です。

 原核細胞はテロメアのない環状DNAを持つので、栄養が続く限り永遠に増え、老化はなく、自然に死ぬこともありません。死ぬのは、飢餓か被食、環境の変化などが起こった場合です。


共生による真核細胞の誕生


 細菌やアーキア(古細菌)といった原核細胞は、DNAが核膜に覆われていません。また、ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官もありません。

 真核細胞の中にある細胞内小器官のミトコンドリアと葉緑体は、どこから来たのでしょうか?
 その答えとなっているのが、元々は異なる生物が細胞に取り込まれ共生するようになったという「細胞内共生説」です。
 20億~10億年前、酸素を使って有機物を分解してエネルギーを獲得する細菌、プロテオバクテリア(好気性細菌)がアーキアに取り込まれたとされています。アーキアは取り込んだ細菌に、効率的にエネルギーを生み出す酸素呼吸を任せるようになりました。
 プロテオバクテリアは、アーキアの内部にいれば栄養が届けられます。こうして互いに利益を生む共生生活が始まりました。取り込まれた細菌は、細胞内でエネルギーを生むミトコンドリアになりました。

 ミトコンドリアを持つアーキアの中には、光合成を行うシアノバクテリアを取り込むものも現れました。こうして酸素呼吸と光合成を行う生物が誕生し、植物へと進化しました。シアノバクテリアは葉緑体に変化しました。

 ウイルスについては、細胞が感染した際に酵素の働きで、ウイルスの情報が染色体に取り込まれるとのこと。

生物は、感染したレトロウイルスの遺伝子をゲノムに組み込むことで飛躍的にゲノムの多様性を広げてきたと考えられています。生物のゲノムに内在化したこれらウイルス遺伝子は、過去にウイルスが感染した痕跡であることから「ウイルス化石」とも呼ばれています。

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20100107/index.html

 
 ロビン・ダンバーによれば、ミトコンドリアやウイルスのゲノムは、「One for all (ワンフォーオール)」ではなく、「All for one(オールフォーワン)」という、あくまでも自己都合で、人間などの生命体に入り込んだということですね。

■主な参考資料
『寿命はなぜ決まっているのか   長生き遺伝子のヒミツ』著/小林武彦 岩波書店

『図解・内臓の進化   形と機能に刻まれた激動の歴史』著/岩堀修明 講談社 

『生きもの上陸大作戦   絶滅と進化の5億年』著/中村桂子 PHP研究所

『人類が知っていることすべての短い歴史』著/ビル・ブライソン 日本放送出版協会

『生物進化101の謎』監修/瀬戸口烈司 河出書房新社

『超圧縮地球生物全史』著/ヘンリー・ジー ダイヤモンド社 

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