『宗教の起源』ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード その6 大集団で暮らすために定住化し、農耕を始めざるを得なくなった?

  『宗教の起源』(著/ロビン・ダンバー 白揚社)などで紹介されている、人類の歴史をおおざっぱにまとめました。

【おおざっぱな人類の歴史】

900万年前~800万年前 地球の寒冷化が始まる
700万年前~600万年前 人類の系統とチンパンジーの系統が分かれる
300万年前~200万年前 現生人類の祖先の「ヒト(ホモ)属」が出現
50万年前 旧人類の出現、発話能力が発達し始める
20万年前 現生人類の出現、発話能力が今日のような形にまで進化する
7万年前 現生人類がアフリカから外へ移住し始める(出アフリカ)
紀元前1万年~紀元前8000年 新石器革命、旧石器時代が終わり農耕・牧畜などが始まる
紀元前3000年 先史時代が終わり歴史時代へ
4500年前 牧畜経済と結びついた一神教の登場、亜熱帯地方の砂漠化が進行
4000年前 都市国家や帝国の出現

発話能力は約五〇万年前の旧人類の出現とともに進化したと考えられるが、それが完全に今日のような形にまで進化するのが、約二〇万年前の現生人類の出現以前とは考えにくいということだ。



 私たちは、「狩猟採取社会から農耕社会への変化に伴って、人々は定住するようになった」と思いがちですよね。
 ロビン・ダンバーによると、「ほぼ確実に間違っている」のだそうです。
 これまで、新石器革命は農耕の習熟と深い関わりがあり、そのための労働力を確保するには定住化が必要だったといわれてきた。だがこれはほぼ確実に間違っている。理由は三つある。
その一、大量の労働力が必要になるのは農業が域外市場も視野に入れた産業規模に発展してからで、まだ何千年もあとの話だ。自給自足のためであれば、一家族の労働力で充分だし、それは今日でも変わらない。
その二、作物栽培の最も古い証拠が、新石器時代に集落ができる数千年前までさかのぼることは現在の考古学の定説になっている。それに定住が始まっても、しばらくは狩猟と採取が生活の基本だった。
その三、農業は少ない労力で栄養状態を大幅に改善したから健康に良いという考え方がすっかり定着しているが、実はその逆だったようだ。(中略)つまり人びとは農業を発展させるために村をつくったのではない。少なくても集落が一定の規模になってからは、村で生活するために農業を始めたのである。
 従来の見かたと順序が入れ変わると、当然疑問も出てくる。なぜとつぜんこの変化が生じ、しかもそれが急速に広まったのか。その答えは侵略者からの防衛だったようだ。

 先史時代の祖先たちの暮らしは牧歌的で、たまの狩猟で気ばらしをしていた ── 私たちはそんな風に想像しがちだが、それは真実からほど遠い。世界のすべての大陸では、少なくとも七万年前から人の移動がさかんだった。時代が進むにつれて、それが部族間の摩擦を生みだす。

 つまり襲撃から身を守ることはずっと昔からきわめて切実な問題であり、集落での生活が最大の防御だったのだ。

 私たちの祖先は、しょっちゅう移動していたようなのです。「人は移動するほど幸せを感じる」という研究成果もヒットしました。

「筋肉が鍛えれば大きくなるように、新しい場所に行くと脳が鍛えられ、ストレスへの耐性が高まり、健康が改善される」。ヘラー氏は、こうした特徴を「人間の核心部分」の一つではないか、と指摘する。

 移動は人間の本能。

 ただ、外敵に備えたり、食料を確保したりするために、集団で移動する必要があったのです。ある集団と別の集団で行き先が重なると、争いにもなったのでしょう。
 「数は力なり」なので、生存のために集団を大きくしていくわけですが、そうなると、簡単には移動できなくなってしまいます。
 結果として、大きな集団は1カ所で過ごす時間が長くなり、集落ができて、狩猟採取を行っていたわけですが、食料が足りなくなるなどして農業を始めざるを得なくなったと推測できます。

ただ問題もあって、規模に関係なく、集団生活をするとストレスがたまる。

 巨大な集団を維持するには、集団生活のストレスを解消させる必要があります。
 そのために狩猟採取が中心の旧石器時代から、グルーミングでエンドルフィンの分泌を促したり、メンタライジングを高めたりして、結束感を生み出していました。
 そんなエンドルフィンとメンタライジングに大いに関係しているのが、宗教だったとロビン・ダンバーは語ります。

要するに私たちが知っているような宗教は、解剖学的現生人類が出現した二〇万年前より以前にはなかったと考えていいだろう。宗教とは、人類を大きく分かつ何かなのだ。
 人間がより大きな集落で暮らしていくには、その規模の拡大にあわせてストレスや集団内の暴力を減らす方法を見つけていくことが必須だった。(中略)たとえば踊りや宴会など、共同体の結束を維持する活動をより頻繁に行なう。結婚に際して男性側が出す婚資など、婚礼に関する正式な取りきめを増やす。民主的な社会から、正式な指導者を擁する男性優位の階層構造に切り替える。……そして、より明確な儀式と正式な礼拝所、専門職を擁する教示宗教への意向である。

宗教が必要とされるようになった背景には、協力行動の利益があったのだろう。社会を正しい状態に保つことで屋台骨を守り、社会生活ならではのさまざまな利益も提供する。


 集団が大きくなるに伴って、宗教も変化していきます。

 原初の宗教は比較的単純なアニミズムの形をとっており、それ以外の要素はほとんどなかったという考えは、これらの分析でより確かなものとなる。もっともそれ以上に重要なのは、アニミズム以外の特徴がひとつずつではなく、むしろまとまった形で出現したことだ。つまり、同時に現れたそれぞれの要素はたがいに関連している可能性がある。死後世界への信仰、祖先崇拝、シャーマニズムがまず加わり、新石器時代に入って農耕が始まってから、高みから道徳を説く神(教義宗教を暗示する特徴でもある)が信じられるようになったと考えられる。ということは、シャーマニズム宗教が先にあって、教義宗教があとから出てきたという見かたは正しいようだ

宗教が発展していった段階は四つに分けられるだろう。
 第一段階は、まだ形の定まっていない没入型の原始宗教だ。三五~五〇人のバンドに散らばって暮らしていた、一〇〇~二〇〇人の小さな狩猟採取共同体を結束させるための宗教である。(中略)
 第二段階は、専門職としての治療師と占い師の出現だ。(中略)
 およそ一万年前、新石器時代の始まりとともに、人びとは定住生活へ移行する。その結果、とくに人数が三〇〇~四〇〇人を大幅に超えてくると、共同体が対処すべきストレスの中身が大きく変化した。この時代の初期が第三段階にあたり、より形式の整った儀式、専門職(聖職者)、儀式の場(神殿)や、土着の神々を有する宗教が生まれた。(中略)
 そして約四〇〇〇年前、いよいよ第四段階が始まる。(中略)ちょうど都市国家や帝国の出現とも重なるのは、その前の数千年間は北半球の亜熱帯地方の気候が温暖で、人口が増大したからだろう。(中略)
これに「高みから道徳を説く神」が加わるのはそれより後で、枢軸時代の北半球の亜熱帯地方、つまり二五〇〇年前ごろのことだったようだ。
p276

 興味ぶかいのは、高みから道徳を説く神をあがめる一神教と牧畜経済の強い結びつきで、それが一神教の諸宗教が生まれた年代を特定する手掛かりにもなる。(中略)明らかな牧畜社会が出現するのは六〇〇〇年前よりあとのことで、一神教の登場はそれよりさらに遅く、おそらく四五〇〇年前ぐらいだと思われる。気候が急激に変化して亜熱帯地方の砂漠化が進行し、徐々に減りゆく水場と牧草地をめぐって部族間の争いが激しくなったころだ。(中略)神学的により厳格な一神教の宗教を信仰していた彼らは、広範囲に広がるかなり大きな共同体を結束させることができ、さらには伝統的な部族の枠をはるかに超えた防衛同盟を組織することができたようだ。
p278

一連の宗教の変化は、地域の人口が変動した結果生じたストレスに対応して、文化が牽引したものだろう。
p278

【おおざっぱな人類の歴史と対応する宗教】

50万年前 旧人類の出現、発話能力が発達し始める⇒アニミズム(自然崇拝)
20万年前 現生人類の出現、発話能力が今日のような形にまで進化する、治療師と占い師の出現⇒アニミズム死後世界への信仰、祖先崇拝、シャーマニズム
7万年前 現生人類がアフリカから外へ移住し始める(出アフリカ)
紀元前1万年~紀元前8000年 新石器革命、旧石器時代が終わり農耕・牧畜などが始まる⇒アニミズム死後世界への信仰、祖先崇拝、シャーマニズム高みから道徳を説く神、聖職者階級
4500年前 牧畜経済と結びついた一神教の登場、亜熱帯地方の砂漠化が進行
※一神教:アブラハムの宗教
旧約聖書の預言者アブラハムを共通の祖とするユダヤ教、キリスト教、イスラム教の総称。
p315
4000年前 都市国家や帝国の出現
1500~3000年前 現代の世界宗教(仏教、神道、ヒンドゥー教、キリスト教、ゾロアスター教)が、北半球の亜熱帯地方で集中して出現
ケチャ(photo/el jusuf


 以下、宗教の形態と、対応する『宗教の起源』の引用を掲載します。ポイントは、宗教も進化していることでしょうか。

 重要なのは、この過程はかならずしもある宗教が別の宗教に置きかわるというものではないということだ。むしろ宗教のひとつの形態(教義宗教)が、それ以前の形態(シャーマニズム宗教もしくはアニミズム宗教)の上に、積みかさなったと見るべきだ。
p33

教義という立派な表看板の下には、いにしえの神秘的な異教の土台が隠れているのだ。
p34

■アニミズム:リズミカルな歌と踊り

 宗教儀式で重要な役割を持つのが、リズミカルな歌と踊りだ。
p153

儀式がエンドルフィンによる効果をもたらし、帰属意識の創出、共同体の結束に重要な役割を果たしていることがわかる。その中で欠かせないのが同期性(後略)
p167
※同期性 動作や歌などを、みんながいっせいに行うこと

 人類最古の宗教は、いまの狩猟採集民の宗教に近いものだったのだろう。(中略)規模はせいぜい数百人と小さく、カリスマ的な指導者やシャーマンが中心的役割を果たしていた。
p3

 小規模な狩猟採取社会には、占い師および治療師として特別な役割を持つシャーマンがほぼかならず存在する。
p60

生活の不確実性に関連するもの(予言、治療、狩猟採取の成功)
通過儀礼および社会現象に関連するもの(出産、死、結婚、戦争、紛争解決、雨乞い)
共同体運営に関連するもの(生活の不確定要素を軽減する)
p61

■死後世界への信仰:死後に使う副葬品を墓に入れる習慣

人間ははるか昔から、死後に生きる世界があると信じていたようだ。死後に使う副葬品を墓に入れる習慣は、およそ四万年前から少しずつ定着していった。
p14

■シャーマニズム:神秘体験、トランス

 主要な宗教は例外なく、神秘体験が重要な構成要素になっている。(中略)もちろん誰もが同じ感覚を経験するわけでなく、その意味では恋に似ているかもしれない。
p47

神秘志向はすべての宗教に当てはまるものであり、起源も古代までさかのぼる。
p48

トランスとは、(中略)本人は完全に覚醒しているが、外部刺激には反応せず、物質世界との関わりが消える。
p55

 トランスの形態とそれに入るための手法が高度に洗練されているのが、ヨガや仏教だ。いっぽうでシャーマニズム宗教では、極度の困苦、激しい運動(舞踊)、抗精神性の薬物など手荒な手段が用いられる。
p56

 儀式は意味があって初めて成立する。自分を痛めつけるためだけに鞭をふるうのは意味がないが、そこに宗教的な意義が加わると、心理的に別次元の行為になる。
p151

向精神性物質について、南北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの先住民が先史時代に使用していたことが、考古学的にも確認されている。
p177

トランス状態をもたらす反響回路に視床下部が関与しているという事実だ。視床下部は、脳内にエンドルフィンを分泌する領域のひとつ。さらに眼窩前頭皮質は情動の経験と社会関係の管理に大きく関わっており、とくにエンドルフィン受容体がぎっしり詰まっている。トランスに入る瞬間に一気に押しよせる、静まりかえった無の感覚は、モルヒネ様物質であるエンドルフィンの急激な増加がもたらしていると思われる。

p145

持続的で弱い痛みである。苦痛が軽めで、とくに礼拝に関係する儀式の多くはリズミカルな動きをともなうため、エンドルフィンを分泌しやすいはずだ。

p146

速く歩く(高覚醒)集団と、ゆっくり歩く(低覚醒)集団を設定し、行進を終えたあと、各集団に協力課題をやってもらう。すると速足で歩いた高覚醒集団は、ゆっくり歩いた低覚醒集団よりも密に集まり、課題を効率的にこなした。

p164

 宗教の進化を支えているのは神秘志向である――これがこの本の最大の主張だ。神秘志向は、現生人類のみが持つと思われる高次元のメンタライジング能力と、別次元の意識のなかで強烈な没入感をともなうトランス状態を生みだすエンドルフィンの働きによって生まれる。

p279

■高みから道徳を説く神:人智を超えた脅威 

「高みから道徳を説く神」を設定して、すべてお見通しの警官のような役割を果たしてもらう
p80


大衆に恐怖を与えることは、支配層にとって都合がよいのだ。(中略)支配者はあらかじめ存在する宗教的な傾向にこうした目的からつけこんでいるのであって、自らの存在を正当化するために宗教を発明したのではないようだ。
p88

 警察力による上からの秩序強制は、共同体の構成員(とりわけ若い男性)の問題行動を管理するのに役だつが、各人が共同体への参加意識を持って自重するほうが、秩序維持にはまちがいなく効果的だ。突きつめれば、それが宗教の最も望ましい役割だろう - 信念と儀式を共有して帰属意識をつくりだすのだ
p211

高みの神が必要なのは、共同体の結束を強めておたがいを守るためであって、牧畜の仕事を管理したり、共同体内部での窃盗をふせぐためではないのだ。
p212

人身供犠と教義宗教の要となるその儀式が、複雑な(そして大規模な)社会への道をひらいたのである。それは規則を破った者を容赦なく処罰することで可能になった面もある。(中略)人身供犠は共同体の一員であることの心理的要求を引きあげるとともに、人智を超えた脅威(私たちの神はとても厳しいから、気をつけないと生贄にされるぞ)として働いていたともいえる。
p213

高みの神が出現する分かれ目は人口一〇〇万人前後であることは、データがはっきり物語っている。つまり高みの神が都市国家というより帝国と結びついており、ひいてはかなり大規模な社会政治的なストレスに対応するためのものだった可能性がある。
p214

正しい因果関係は、社会が複雑になった結果、安定を得るために、高みから道徳を説く神の信仰を進化させたのであり、高みから道徳を説く神の信仰が、ある種の必然の結果として、社会を複雑に進化させたわけではない。実生活と同じく、進化においても解決策は問題のあとにやってくる。問題になりそうなことを先どりはしないのだ。
p215

宗教専門職が現れるのは社会が充分に豊かなときで、宗教活動に専念するもののために食べ物を取っておけるのだ。ここから考えられるのは、シャーマンや治療師とは対照的に、聖職者階級が出現するのは、農業生産が拡大し、人口も増えて、余剰食糧が持てるようになったからということである。もちろん、人口がこれぐらいの規模になれば、社会は深刻なストレスに直面する。
p218
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