腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その10 脂質がなければ水中国家は成立せず、コレステロールに善玉も悪玉もないという話

多くの生物学者が認めている生物の定義とは、以下の三つの条件を満たすものである。
(一) 外界と膜で仕切られている。
(二) 代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う。
(三) 自分の複製を作る。



 人間の体は、およそ60%が水で占められています(成人男性の場合)。細胞の中も外も水で満たされていて、呼吸も水を介して行われています。赤血球なども、ある意味、血漿という水に流されて移動しているのです。

 そのようなわけで、「人体は水中国家」として、かなり脱線しながら話を進めてきました。

 水中国家のルーツまでさかのぼると、最初に成立したのも、水の中でした。「太古の海」です。
 太古の海の中には、水分子だけでなく、さまざまな物質(高分子化合物)が含まれています。そこに、波やら地熱やらさまざまな力が働いて、いくつかの物質がくっつき、その周りは膜で覆われました。
photo/girlydrop


 人間の歴史に置き換えると、一人ずつバラバラに行動していたら、狩りは大変だし、強い動物に襲われてしまうので、少しずつグループを作り始めたという感じになるでしょうか。
 小さなグループ同士がくっついて、だんだん大きくなっていくと、妊娠中の女性や子どもなど、さまざまなメンバーがいるのでグループとして移動しにくくなります。
 そこで定住し始めたら、食料などを奪おうとする他のグループから襲撃を受けるようになりました。そこで、最初は小さな柵を作り、徐々に堅牢な壁で守るようになりました。これが都市国家の成立です。

古代都市イリオスの遺跡(Wikipediaより)


 あくまでもイメージですが、そんな感じで、水中国家が誕生したのです。
 誕生した頃は、外も水、内も水で、区切る膜は「水と油」の脂質が使われたのでしょう。
 生物の定義「外界と膜で仕切られている」を成立させるには、脂質が必要不可欠なのです。

 そんな脂質の1つであるコレステロールについては、「悪玉コレステロール」「善玉コレステロール」などと呼ばれる機会が多々あります。しかし、コレステロールに善玉も悪玉もありません。コレステロールはコレステロール。
 コレステロールを運ぶリポタンパク質の振る舞いを「悪玉」「善玉」と表現することで、わかりやすくしたのでしょう。

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 人体という水中国家には、脳という王様や肝臓という化学工場、消化管というトンネルなどがありますが、これらも外界とは膜で仕切られています。
 さらに、脳や肝臓などを構成している細胞も、外界とは膜で仕切られています。
膜で包まれている細胞(イラスト/おやすみん


 膜の中に膜、その膜の中に膜……
 入れ子細工のようですね。
photo/cottonbro studio



 ただ、完全に外界とさえぎられていると、生物の定義「代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う」が成立しません。代謝については、外部から取り入れたものを利用するという営みで、内部だけでは完結しません。利用した際にはゴミ(老廃物)も出てくるので、外に捨てなければ内部はゴミだらけになってしまうのです。

 ですから、ときどき膜に隙間が開いて、必要なものだけを取り入れて、ゴミなど不必要なものだけを出すという作業を行っています。 

生命は外部に対して「閉じつつ、開いて」いなければならないのである。

■参考資料
『生命の内と外』 著/永田和宏 新潮社

『若い読者に贈る美しい生物学講義』 著/更科功 ダイヤモンド社


 ※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
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