腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その12 「濃度差」が物質輸送のカギ

 文系の皆さん、赤血球が酸素を運んでいることは教科書で学びましたよね。では、どうやって酸素の受け渡しをしていると思いますか。

 漫画好きのあなたは、『はたらく細胞』を読んで「そりゃ、細胞とやり取りしているんだろう」と思ったかもしれませんが、酸素や栄養などの輸送は、各戸に配達する「宅配便方式」ではありません。
『はたらく細胞』(6)


 「ゴミ収集方式」なのです。
 地域によって違いはあるでしょうが、多くの場合、ゴミ収集車は決まったルートを回って、ゴミを回収しています。
 赤血球も、血管という決まったルートを回ります。血管から出て行って、37兆個(昔は60兆個と考えられていた)もある細胞一つひとつと、「酸素を届けに来ました!」というやり取りなんかできないわけです。『はたらく細胞』は赤血球の働きを、かわいらしくデフォルメしているということ。

 では、血管の内と外で、どうやって酸素や栄養などの受け渡しを行うのでしょうか。

 体の隅々にまで張り巡らされている毛細血管には、小さな小さな穴が開いています。

3種類の毛細血管(Wikipediaより、一部改変)


 その穴から、血液の液体成分である血漿が少しずつ漏れ出しているのです。
 目の細かい布(ハンカチなど)を袋状にして水を入れると、じわ~と水がしみ出しますよね。そんな感じでしょうか。

 毛細血管から出た血漿は、間質液(組織液)と呼ばれています。間質液は細胞の間を満たしています。つまりは、細胞と毛細血管とをつなぐ役割をしているわけです。
 細胞は、間質液から酸素や栄養などを取り入れて、二酸化炭素やゴミ(老廃物)をこれまた間質液に出しています。

 間質液は、毛細血管に戻っていったり、リンパ管に回収されてリンパ液になったりして、最終的には太い静脈と合流して、心臓に戻るのです。

 あれ? と思いませんか。

 毛細血管から血漿が漏れ出す理屈は想像できますよね。

 心臓から血液が押し出されているのだから、その圧力で出て行っちゃうのだろう。
 では、間質液が毛細血管の中に戻るのは、どんな力が働いているんだ? 

 この力と関係しているのが、「浸透圧」です。文系でも聞いたことはありますよね。

 浸透圧の前に、まずは「拡散」について触れておきましょう。

 例えば、スープを作っているときに、うっかり塩を入れ過ぎてしまったとしましょう。そんなときは、お湯を足して、味を調整しますよね。
 鍋の中では、スープに溶けていた塩がお湯へと移動して、濃度が均一になっていきます。これが、拡散。

 では、「密度が高く、水は通すけれども塩は通さないポリ袋」があるとしましょう。
 塩を入れ過ぎたスープをこのポリ袋に入れてから、空っぽの鍋に入れます。そして、鍋にお湯を注ぐと、何が起こるでしょうか。

 鍋のお湯がどんどんポリ袋に入っていき、スープの塩分濃度を下げていきます。塩はポリ袋の外には出ないために、鍋のお湯だけがポリ袋の中へと移動していくのです。これが、浸透。

 このようにお湯(水)が移動するときに発生する力が「浸透圧」です。

 薄いほうから濃いほうへ水が動いていく。これが、間質液が毛細血管に入っていくときの力なのです。
薄いほうから……(本人比)



濃いほうへ(本人比)


 血液には、パチンコ玉サイズから小惑星サイズまでさまざまな成分が含まれています。

 毛細血管の穴から出て行けるのは、パチンコ玉サイズのグルコース(ブドウ糖)などです。野球ボールサイズのタンパク質であるアルブミンは、血液の中にとどまります。
 そのため、血圧で毛細血管から水(血漿)が押し出された後は、アルブミンが濃い血液になっちゃうわけですね。血管の外よりも内のほうが濃いということ。

 薄いほうから濃いほうへ水が動いていくわけですから、血管の外から内へと水(間質液)は移動するのです。

 生物の定義には、次の3つがあります。
(一) 外界と膜で仕切られている。
(二) 代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う。
(三) 自分の複製を作る。

 「 代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う」の「流れ」には、さまざまな場面で濃度差が関係しているのです。


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腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その11 血液の成分は、パチンコ玉サイズから小惑星サイズまでさまざま

■参考資料
いざ、毛細血管の中へ|流れる・運ぶ(5)
※非常にわかりやすく、お勧めのサイト

『はじめての生理学』監修/當瀬 規嗣 ナツメ社

 ※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
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