腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その16 腎臓は「洗濯機方式」で血液をクリーニング(糸球体)

  人体という水中国家で、腎臓の役割は、下水処理場兼浄水施設であり、ゴミ処理場であり、リサイクルセンターであり、実は丞相でもあります。
 

 今回は、下水処理場兼浄水施設の機能を持つ、腎臓の糸球体について検討しましょう。
糸玉のように見える糸球体(『世界一美しい人体の教科書』より)


 下水処理場と浄水施設で行われているのが、沈殿。ゴミを沈めて、水から取り除いています。
下水処理の仕組み(千葉県サイトより)

浄水の仕組み(千葉県サイトより)


 横浜市の下水処理場では、1.5~4時間くらい、沈殿に時間をかけています。ちなみに、下水処理トータルでは11~14時間かかるとのこと。
沈砂池・ポンプ設備 2~5分
最初沈殿池 1.5時間程度
反応タンク 6~8時間
最終沈殿池 3~4時間
消毒設備(接触タンク) 15~30分

 人体という水中国家では、そんなに時間はかけられません。
 ですから、「洗濯機方式」が採用されています。
画像/QREON



 洗濯、つまりクリーニングですが、洗濯機の工程では「洗い→脱水→すすぎ→脱水」というように、脱水が複数行われますよね。
 実は、脱水が重要なのです。
 「洗い」では、汚れた衣類と洗剤が水に入れられて、かき混ぜられます。この段階では、洗剤が衣類から汚れを引きはがし、水に溶け込ませます。
 洗剤と汚れを含んだ水を、衣類から搾り取るのが、脱水です。「洗い」の後に脱水をせずにすすいでも、いつまでも泡が残ってしまい、洗剤と汚れをなかなか取り除けません(経験者語る)。

 洗濯機ではどうやって脱水するのかというと、洗濯槽を回転させて、洗濯物に遠心力をかけ、水分を飛ばしています。
 多くの洗濯槽には、穴が開いています(穴なしは1社くらい?)。

 洗濯物に遠心力をかけると、当然、洗濯物も外側に飛ばされます。洗濯槽は洗濯物を内側にとどめておいて、穴から外へ水分だけが出ていくという仕組みになっています。


 では、腎臓の糸球体ではどうしているのかというと、血圧という力を使って、水分を飛ばしています。
 糸球体は、毛細血管が糸玉のように丸まった組織です。毛細血管には、洗濯槽と同様に、小さな穴が開いています。
 糸球体を構成している毛細血管には、穴が開いています。
糸球体の毛細血管は「有窓型」(Wikipediaより、一部改変)




 そのため、糸球体に強い圧力で血圧を送り込むと、液体成分の血漿が穴から出ていくのです。


腎臓皮質のイメージ(糸球体=洗濯機が100万個)



 洗濯機の洗濯物に相当するのが、血液のタンパク質や血球です。血球やタンパク質は大きいので、糸球体の毛細血管の穴からは外に出ません。洗濯槽の穴も、毛細血管の穴も、「必要なものは内側に、汚れは外側に」とふるい分けするのに、ちょうどよい大きさなのです。

 では、洗濯槽の穴が、なにかの手違いで大きくなり過ぎたら、どうなるでしょうか。脱水の際に、ハンカチや靴下などは洗濯槽の外側に飛び出していきますよね。
 また、洗濯の際に誤ってクギやネジなどを入れてしまうと、洗濯槽は傷ついて、壊れてしまう可能性が高くなります。
 ちなみに、洗濯機の寿命は、6~7年といわれています。

 毛細血管の穴も同様です。
 毛細血管の場合、362日、24時間、絶えず血圧で押されている状態ですから、穴にも相当な負担がかかります。そのため、血液が血管の壁に当たる時間が長くなるほど、壁が破れて、穴が大きくなるのは、仕方がないことです。穴が大きくなったら、「ふるいがザルになった」状態で、タンパク質や血球が血管の外に出て、尿に混じってしまいます(タンパク尿・血尿)。
 また、血液の中に結晶化した硬い物質が混じっていると、血管の壁が傷ついて、炎症を起こす可能性があるのです。結晶化する代表的な物質がリンとカルシウムで、CPP(リン酸カルシウム結晶を吸着したタンパク質Fetuin-Aの凝集体)が作られます。

 そのようなわけで、糸球体にも寿命があります。
 20代の頃には腎臓1個当たり100万個あった糸球体は、加齢とともに減っていき、個人差もありますが70代で半分になるといわれています。
加齢による腎臓の変化(Adv Chronic Kidney Dis. 2016 January ; 23(1): 19–28.より)




■参考資料
『寿命の9割は「尿」で決まる』   著/堀江重郎 SBクリエイティブ

『図解腎臓が寿命を決める』  著/黒尾 誠 幻冬舎


 ※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
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