腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その21 レニンはホルモンということで、よかろうか……?
女性ホルモン、男性ホルモン、成長ホルモン……テレビ番組やコマーシャルなどでも、「ホルモン」という言葉はよく耳にします。
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| マキシマムザホルモン公式サイトより |
ホルモンが最初に報告されたのは、1902年のことです。けっこう最近の話なのですね。
小腸粘膜で作られ、血流で膵臓に運ばれて膵液の分泌を促す物質を、イギリスの生理学者ベイリス(BaylissW.M)とスターリング(StarlingE.H)が発見し、セクレチンと名付けました。
1905年には、イギリスの生理学者エドキンス(EdkinsJ.S)が、胃粘膜で胃酸の分泌を促す物質、ガストリンを見つけました。
スターリングは1905年の講演で、「血液中に分泌されて、遠くの器官に作用する物質をホルモンと呼びましょう」と提案しました。ホルモン(hormone)の由来は、「刺激する」「呼び覚ます」という意味のギリシャ語です。
それまでは、「生体機能はすべて神経によって支配されている」と考えられていました。しかし、ホルモンという新しい概念ができて、その考え方は大きく変わりました。
また、新たなホルモンが次々と分離されて、化学構造が同定されていきました。
当時のホルモンの定義は、「特定の臓器(内分泌腺)で作られ、血流で離れた場所に運ばれ、少量で特異的な作用を発揮する化学物質」でした。これを「古典的定義」とします。
1919年に、アメリカの生化学者ケンドル(Edward Calvin Kendall)が、甲状腺ホルモンのチロキシンを分離・同定しました。
1921年には、カナダの外科医バンティング(Frederick Grant Banting)が、イヌの膵管を縛って膵臓を膵液で消化させて残った膵組織からインスリンを抽出することに成功しました。翌年の1922年に、糖尿病患者にインスリンが初めて投与されて、良好な結果を得たとのこと。
1977年のノーベル賞は、フランスの生理学者ロジェ・ギルマン(R. Guillemin)とアメリカの学者アンドルー・ウィクター・シャリー(A. V. Schally)が、「脳のペプチドホルモン産生に関する発見」で受賞。また、「ペプチドホルモンの放射性同位元素標識免疫検定法(radioimmunoassay, RIA)の開発」で、アメリカの研究者ロサリン・ヤロー(R. S. Yalow)も受賞しました。
こうした研究で、視床下部の神経細胞がホルモンを産生・分泌して、下垂体ホルモンの合成・分泌を調節していることがわかり、神経内分泌という概念が生まれました
また、ホルモンの古典的定義に当てはまらない物質も発見されるようになりました。
膵臓のランゲルハンス島のソマトスタチンは、組織間隙中に分泌され、同じ島内のα細胞やβ細胞に作用します。近接する細胞に作用するホルモン分泌を、傍分泌(paracrine)といいます。また、ホルモンを分泌した細胞自身に作用することを、自己分泌(autocrine)と呼びます。傍分泌と自己分泌に関わるホルモンは、局所ホルモンです。
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| 『ランゲルハンス島の午後』 |
神経細胞(ニューロン)間の連絡も、化学物質(神経伝達物質)がシナプス間隙に分泌されて起こるので、神経伝達と内分泌との区別も曖昧になりました。
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| 受容体分子によるシナプス形成誘導を発見より |
白血球やリンパ球などの免疫細胞は、化学物質(サイトカイン)を分泌します。サイトカインは血流に乗って運ばれてから作用を発揮するので、免疫細胞も内分泌細胞という見方ができそうです。
このようにホルモンの概念はかなり変わってきて、定義も拡大されました。
ホルモンの「現代的定義」は、「脈管内液(血漿、リンパ液)および組織間隙(血管内、リンパ管内、細胞内を除いたスペース)中に分泌され、少量で特異的な作用を発揮する物質」となっています。
こうした経緯を踏まえた上で、レニンはホルモンなのか、そうでないのかを調べました。
理由は、ある解剖学者の本に「レニンは酵素であって、ホルモンではない」と断言されていたからです。「けしからん!」という強いタッチで書かれていた一方で、ほかの本には「レニンはホルモン」とありました。
酵素については、化学反応で触媒(それ自身は変化せず、他の物質の反応速度を上げる物質)として機能する分子だと、一般的には説明されています。
さあ、どうする?
一般社団法人日本腎臓学会のサイトには、以下の記述があります。
腎臓の傍糸球体装置と呼ばれる部分ではレニンという血圧調節ホルモンが分泌されます。
一般社団法人日本内分泌学会のサイトには、以下の記述があります。
腎臓からは、赤血球をふやすエリスロポイエチン、血圧関連のレニンというホルモンがでます。
ホルモンの種類
ペプチドホルモン(成長を促す成長ホルモンや血糖をさげるインスリンなど大部分のホルモンのほかリンパ球などに作用するサイトカインもこの仲間です)ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン、性腺ホルモン、ビタミンD3など)アミノ酸誘導体(副腎髄質ホルモン:アドレナリン、ノルアドレナリン、甲状腺ホルモン)プロスタグランジン
以上のことから、権威主義の『クラナリ』編集人としては、「レニンはホルモンということで、よかろうもん」とします。ただ、原稿では「酵素」と書いちゃうかな、ははは。
レニンは血圧を上げる仕組みに大きく関係しています(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系、RAAS)。RAASについては、以下で紹介しています。
■参考資料
ホルモンについて-山形大学環境保全センターへようこそ
液性調整の情報制御
日本医学会創設120周年記念誌



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