腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その6 ようやく腎臓の話
※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。
人体という水中国家では、国家を維持するために必要なものを外界から取り込んで、使った後にできたゴミは外界に捨てています。
水中国家を満たす水(地球上においては空気)は、国民が健康に暮らすために、美しく、またちょうどいい組成になっていなければなりません。
ちなみに、地球上の空気は、窒素(容積比 78.1%)と酸素 (21.0%)、そして水蒸気、微量気体で構成されています。地球の歴史では、酸素濃度が大きく変動したことで、大量絶滅などが何度か起こっています。
水中国家についても同じことがいえます。組成が大きく変わってしまったら、王様も国民も生きていけなくなるのです。
その割に、水中国家の王様は気まぐれです。
「今日は腹が立つことがあったから、やけ食いを行うこととする。じゃんじゃん、トンネルから食べ物を入れよ」
「今日はお気に入りの球団が勝ったから、戦勝会を行うこととする。じゃんじゃん、トンネルから酒を入れよ」
「ちょっといい気持ちだから、これを続けることとする。邪魔になるから、トンネルから水や食べ物を入れるな」
酒池肉林。
王様の命令に従って、水中国家には大量の食べ物や飲み物が入ってきたり、逆に全然入ってこなかったりするわけです。
化学工場はフル稼働で、物流拠点にはさまざまな物品が集まってきては配送されます。
その様子を、下水処理場兼ゴミ処理場(そのほかの役割もありますが)で観察しているのが、丞相です。
「ゴミを見ればその人の人生がわかる」といわれるように、何を取り入れて、何が使われて、何が過剰で使われなかったかなどが見えてくるので、下水処理場兼ゴミ処理場はモニタリングに最適の場所なのです。
ただ丞相といえども、「王様、おやめください!」と意見することはありません。
それで何をするのかというと、国民全体に向けてサインを送るのです。そのサインに気づいた国民が、配送用のトラックを増やしたり、配送スピードを速めたりと、対応をします。
こうした連係プレイのおかげで、今日もこの国の平和は保たれているのです。
そんな縁の下の力持ちである丞相が、人体では腎臓なのです。
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| 腎臓(看護roo!より、一部改変) |
下水処理場・ゴミ処理場・リサイクルセンターを兼任する丞相、腎臓の働きを追っていきましょう。
1 ゴミとそうでないものをふるいにかける
人間の体だと、上水道と下水道が分かれているわけではありません。栄養分もゴミ(老廃物)もごちゃ混ぜの血液が体を巡っています。
そんな血液が、心臓から腎臓に送られてくるので、必要なものと不要なものを分けなければなりません。
その第一段階が、糸球体。
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| 糸玉のように見える糸球体(『世界一美しい人体の教科書』より) |
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| ネフロン(看護roo!より、一部改変) |
糸球体では、血液がふるいにかけられます。
砂金採りでも、ふるいが使われていますね。川底などから採取した砂をふるいにかけると、砂金がふるいに残ります。
このとき、川の水の中でふるいを揺さぶります。ふるいを揺する、たたくなどの力がかからないと、分別できません。
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| 粉を振るうときには、揺すって、たたきます |
では、糸球体ではどうやっているのかというと、ものすごい圧力で、狭い毛細血管にギューッと血液を送り込んで、ふるいにかけているのです。
糸球体を構成している毛細血管には、穴が開いています。
この穴は小さいので、赤血球やタンパク質は通過できません。そのため、糸球体では、毛細血管の中に赤血球やタンパク質は残されて、そのほかは水分と一緒に絞り出されるのです。
2 必要なものだけをリサイクルする
糸球体で絞り出された液体である原尿には、まだまだ体にとって必要なアミノ酸やブドウ糖などが残っています。それを回収するのが、尿細管です。
原尿に含まれる水分の99%は、尿細管で再吸収されます。
なんて無駄なことを!
つい、そう思いますよね。ただ、血液の中のゴミには、役に立たないだけの無害のもののほかに、有害な毒素も紛れ込んでいます。ですから、さっさと毒素を出してしまうには、絶対に必要なものだけを残して、残りはさっさと排出したほうが効率がよいのです。
再吸収された水分やアミノ酸などは、糸球体を通り抜けた血液の中に戻されます。
3 監視する
腎臓に血液が十分に送り込まれず、糸球体というふるいに圧力がかけられなければ、ゴミが体に残ってしまいます。ですから、ちゃんと血液が送り込まれているのかを感知する装置が、腎臓には備わっているのです。
それが、傍糸球体装置。「傍糸球体」なだけに、糸球体のそばにあり、数種類の細胞で構成されています。
その一つの、密集斑(マクラデンサ)細胞が、尿細管の中を通る原尿の食塩(NaCl)濃度を調べます。その情報を、隣接するメザンギウム細胞から輸入細動脈平滑筋細胞や顆粒細胞に伝達します。
ほかにも、糸球体に流入する血液の量を感知して、「血圧が足りない」という場合には顆粒細胞からレニンという酵素が分泌されます。レニンは血圧を上げる仕組みに大きく関係しています(RAAS)。RAASについては、以下で紹介しています。
また、尿細管の終わりの地点である遠位尿細管は、糸球体を出入りする2本の動脈に挟まれて、ペタッとくっついています。このくっついているところに傍糸球体装置があります。そして、遠位尿細管の中を流れる原尿の量をモニタリングして(具体的には、塩化物イオンの濃度を感知)、糸球体を流れる血液の量を微妙に調節しています。
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| 糸球体を出入りする2本の動脈に挟まれて、ペタッとくっついている遠位尿細管(緑の丸で囲んだ部分、看護roo!より一部改変) |
このように、ゴミがちゃんと取り除かれる状態を維持できているか監視して、必要に応じて「もっと血液を送って」と指令を出しているのです。
マンガ『キングダム』の悼襄王は、かなりの困ったちゃんですが、私たちもけっこう困ったちゃんだったりします。
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| 悼襄王(『キングダム』より) |
水中国家の王様の指令:対応する私たちの行動
「今日は腹が立つことがあったから、やけ食いを行うこととする。じゃんじゃん、トンネルから食べ物を入れよ」:暴食
「今日はお気に入りの球団が勝ったから、戦勝会を行うこととする。じゃんじゃん、トンネルから酒を入れよ」:暴飲
「ちょっといい気持ちだから、これを続けることとする。邪魔になるから、トンネルから水や食べ物を入れるな」:ランナーズハイ、サウナでのぼせていっちゃった状態
『キングダム』を読みながら「丞相の李牧が気の毒だ……」と思った『クラナリ』編集人ですが、我が身を振り返れば悼襄王のような行動を取っていたことを反省しているところです。
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| 丞相の李牧(『キングダム』より) |
暗い……
あまりにも……
■参考資料
地球史における大気酸素濃度の変遷と生物進化










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