腎臓を巡る、長く、曲がりくねった物語 その25 人体から最初に発見された元素は、バケツ60杯の尿を蒸発させて精製したリンだったというお話
人体から発見された最初の「元素」
多種多様な元素が、生きている人の体内に存在していることは、どのようにしてわかったのだろうか?
歴史的に見て最も古い例は、1669年にドイツの錬金術師ブラント(1630~1692年)が人の尿を煮詰めて精製することで発見した「リン」である。彼は、人体の成分に元素が存在することを初めて示した人物だ。
尿を煮詰める……うーん、めちゃくちゃ臭そう。家族にプラントみたいな人がいたら嫌だなあ。
きっとプラントは、金を作り出すために、強烈なにおいにも屈しなかったのでしょう。金の魅力たるや、いかに。
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| 原子番号15番で元素記号がPのリン |
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| 「一家に1枚 元素周期表」(文部科学省) |
尿に含まれているリン(P)は、1dL当たり2.7~4.4mgとのこと。1日の尿量1500mL(15dL)だと、40.5~66mgということになります。
1円玉の重さが1g(1000mg)なので、リンの量はその20分の1程度ということになるようです。そう考えると、プラントはけっこうな尿を集めてきたのかなあとも思うのでした。
ウィキペディアによれば、「バケツ60杯の尿を蒸発させていた」のだそうです。く、臭い……
リンについては、以下のように説明されています。「光を運ぶもの」が語源なのですね。
どうやら、リンが非常に燃えやすことが、「光を運ぶもの」と結びついたようです。空気中で自然に燃え始める元素とのこと。
リン(燐、英: phosphorus、新ラテン語: phosphorus[4])は原子番号15番の元素である。元素記号はP。原子量は30.97。窒素族元素(15族)のひとつ。周期は3。ギリシャ語で「光を運ぶもの」という意味の「phosphoros」から命名された。phos が「光」、phoros が「運ぶもの」の意。
「光を運ぶ」というよりも臭さが印象的な発見エピソードですが、さておき、リンは生命活動に必須の元素とのこと。
すべての地球生命が共通して持つDNA や RNA、ATP、細胞膜に含まれるリンは、生命の必須元素である。しかし、体内中のリンの存在度と宇宙空間におけるそれの間には大きな隔たりがある。生命は、存在量の低い元素を何らかの理由であえて使ったのか、それともリンは生命誕生の現場にて都合良く濃集されていたのか。これは地球生命の起源に深く関わる謎といえる。
DNA や RNA (リボ核酸)、ATP (アデノシン三リン酸) の構成成分であるリンは、生命の必須元素である。しかし、体内中のリンの存在度と宇宙空間におけるそれの間には大きな隔たりがある。例えば人体において、リンは水素原子に対する数密度比で0.4%を有する。一方で、宇宙でのリンの存在量 (太陽組成比) は、10のマイナス7乗程度と極めて小さい。
リンと生命の起源研究会
https://www1.gifu-u.ac.jp/~hsano/phosphorus/2019/index.html
地球上の生命は海の中で誕生しました。海水には、もちろん、リンが含まれています。
燃えやすいということもあるのか、天然ではリンが単体では存在せず、リン酸塩で産出されるとのこと。リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどのように、ほかの物質と化合しています。
水中では、リンはほとんどリン酸塩(PO43−)の形でしか存在しません。リン酸塩にはいくつかの形態がありますが、アクアリウムで最も重要な形態は有機リン酸塩と正リン酸塩の2つです。有機リン酸塩とは、植物や動物の組織と有機的に結合しているリン酸塩のことです。このタイプのリン酸塩は主に生物学的プロセスによって形成され、アクアリウムのなかで継続的に発生します。正リン酸塩は無機リン酸塩、または反応性リン酸塩を指します。このタイプのリン酸塩は可溶性で容易に吸収することができ、直接測定することができる唯一のリン酸塩です。
海水を構成する元素は、水素、酸素、塩素、ナトリウム、マグネシウム、硫黄、窒素、カルシウム、カリウムなど80種類以上で、リンは19番目に多いようです。
一方、人体を構成する元素は、1番多いものから順に酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リンと、リンは6番目になっています。
海水中の元素としては多いほうから数えて 19 番目で、人体中では6 番目に多い元素です。体重70kg の人では700~ 780g 含まれています。
体の中でリンが最も多いのは骨や歯で、カルシウムと結びついています。これが約85%。
そして、DNA や RNA、ATP、細胞膜の材料として、細胞の中に約15%、残りは細胞外液(血液など)に存在しています。水の中なので、リン酸という形になっていますね。
〇DNA(デオキシリボ核酸):基本単位のヌクレオチドが糖・リン酸・4種類の塩基アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)で構成
〇RNA(リボ核酸):DNAと同じく、基本単位のヌクレオチドが糖・リン酸・4種類アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の塩基で構成
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| Wikipediaより |
〇ATP(アデノシン三リン酸):生体の「エネルギーの共通通貨」
〇細胞膜:リン脂質(リン酸+脂肪酸)の二重の層(脂質二重層)
植物は太陽光、人間のような動物は食べ物などから、エネルギーを取り入れています。こうしたエネルギーは、ATPに変換してから使われます。外からのエネルギーは太陽光や食べ物など、生物の種類によってさまざまですが、すべてに共通して、外からのエネルギーをATPに変換してから代謝反応に使っています。お金のようにためたり、いろいろなものと交換したりできることから、「エネルギーの共通通貨」と呼ばれているのだとか。
リンは、さまざまな食品や生活用品にも使われています。
『クラナリ』編集人にとって印象的なのは、「無リン」をうたった洗濯用洗剤です。かつて、界面活性剤の助剤として含まれているリン酸塩が配合されていたのですが、洗濯排水が川に流れ込んだことで、水質が著しく低下したのです。
一つは過剰ゆえの問題です。リンは自然界においては基本的には不足しがちな物質ですから生物はそれを取り込むことに敏感です。とくに水生生物の繁殖を左右する重要な元素です。1970 年代~ 80 年代にかけて琵琶湖や霞ヶ浦などで藻類・植物プランクトンが大発生し水質の悪化がおこりました。その原因は当時の合成洗剤に含まれていた縮合リン酸塩洗浄助剤(代表はトリポリリン酸ナトリウム)でした。その後メーカーによる無リン洗剤の開発が行われ水質の改善が行われました。
「リンは自然界においては基本的には不足しがちな物質ですから生物はそれを取り込むことに敏感」というのは、人体でも共通しているようです。吸収されやすいと同時に、排泄されにくい、つまり体の中にしっかり確保しておこうとするわけですね。
過剰なリンが血管や尿細管を傷つけ、腎臓病の原因になることを、自治医科大学医学部の黒尾誠教授が指摘しています。
脊椎動物が陸上へ進化する際に、重力に負けないように骨を強くする必要があったはずです。そのため、骨の成分であるリンを保持することが重要だったのでしょう。言い方を変えると、リンを取り込んで、体内に持っておける脊椎動物が生き残ったのかもしれません。
ただ、便利な現代の食生活で、リンの摂取量があまりにも増え過ぎると、逆に生命の維持を脅かすようです。この点は、ナトリウムと一緒ですね。
リン酸塩は、練り製品や食肉製品(ハムやベーコン)、プロセスチ-ズ、麺類などに用いられる食品添加物です。その働きは、以下のとおりです。
〇乳化(油と水をうまく混ぜ合わせる)
〇結着(原料と原料をうまく引っ付ける)
〇pH調整(保存性を高める)
いくつかの生協ではリン酸塩についての説明が行われていて、リン酸塩にばかり神経質になるよりも、バランスよく食事することを心がけたほうがよいと書かれていました。
リン酸の製造方法には、湿式法と乾式法があるようです。どちらもリン鉱石が原材料。
湿式法
リン鉱石を硫酸で溶解し、石膏成分をろ去し、まず薄い濃度のリン酸を製造し、必要な濃度まで濃縮
乾式法
リン鉱石を電気炉で還元して得られた黄リンを燃焼させて無水リン酸とし、これを水和することでリン酸を得る
■参考資料
「タンパク質の構造解析からエネルギー通貨の進化の痕跡を探る」―「ピロリン酸は原始的なエネルギー通貨だった説」をサポートする証拠を発見―
元素【リン】番号15・記号Pを詳しく知ろう!社会で役立つ化学の基礎知識
食品添加物「リン酸塩」は、どのくらい危ないの?
おいしくって安全なお話2023年39号(食品添加物リン酸塩は身体に悪いって本当?)
リン酸塩を食品に入れる目的と安全性について教えてください。
リン酸の精製方法および高純度ポリリン酸



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