エフェクチュエーション(Effectuation)とドラッカー・ポーター・コトラー
経営などとはずっと無縁だった『クラナリ』編集人が、「ちょっと、かじる程度のことはやっておきたいな……」と思って手に取った『【完全図解】一冊で丸わかり ドラッカー・ポーター・コトラー入門』。
図解が多く、入門編なんですけど、コンテンツが多すぎるのです(1回目)。
読み進めれば、「ああ、これは聞いたことがある」「このフレーズはドラッカーが言っていたのか」と、なじみのある内容も盛り込まれていますが、とにかくコンテンツが多すぎるのです(2回目)。
この入門編を読んで、本で推薦されているピーター・ドラッカー(1909-2005年)とマイケル・ポーター(1947-現在)、フィリップ・コトラー(1931-現在)の著書を読んで、自分の頭で理解して……という作業をしていたら、経営どころではなくなりそうですよね。
また、ドラッカーのマネジメント、ポーターの戦略論、そしてコトラーのマーケティングを学ぶことが目的になると、「正解」を求めて、身動きが取れなくなりそうですよね。実際に経営するどころではない……
今は時代の変化が目まぐるしく、分析などに時間をかけすぎていると、あっという間に取り残されるということですよね。
また、同じ理論を使って正解を求めていくと、結局、みんなが同じ答えになってしまいます。
ある意味では、そうなるように理論は組み立てられています。そうでなければ、科学的とはいえません。明治大学のサイトでは、次のように書かれたPDFがアップされていました。
「科学」とは,問題に対する仮説が観察・実験等により検討できること【実証性】, 同一条件のもとでは同一の結果が得られること【再現性】,導出した結論が事実に基づき客観的に認められること【客観性】といった基本的な条件により成立する。
再現性は基本的な条件なのです。「まぐれ」は、非科学的。
例えば、マーケティングの父とも呼ばれるコトラーが提唱した手法の一つである、STP分析。
●Segmentation(セグメンテーション):市場細分化
●Targeting(ターゲティング):標的
●Positioning(ポジショニング):他社との違いを明確にする
『クラナリ』編集人の場合は、出版業界にいますが、Segmentationでは健康実用書がメインです。少子高齢化・出版不況(スマートフォンの普及)を背景に考えるとTargetingは高齢者。Positioningとしては、他社の書籍よりもわかりやすく、親しみやすい内容というところでしょうか。
となると、この業界に長くいる人は、自分とほとんど同じ答えを出してしまうと思うのです。「同一条件のもとでは同一の結果が得られる」という、「みんな、同じことばっかり」現象。
ただ、現実としては、売れる本と売れない本があるわけで、必ず理屈どおりになるわけでもありません。というか、ならないほうが多い気もします。
そうなると、ぐじぐじと考える前に、手元にあるいくつかのアイデアや手段で動いていくことも大事になるのでしょう。
どうやら、エフェクチュエーション(Effectuation)を提唱したバージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー(1959-現在)教授は、「考えるよりも、とりあえずやってみる」ことの重要性を説きたかったようです。
また、サラスバシー教授は既存の理論を決してないがしろにはしておらず、「使い分け」の重要性を強調しているようですね。不確実なことは多いが動かなければならないときはエフェクチュエーション、ある程度見通しが立てばドラッカー・ポーター・コトラーの理論を使う、というように。
白山鳩さんのnoteにそのようなことが書かれていました(とても面白いです!)。
『エフェクチュエーション』(著/サラス・サラスバシー 碩学舎)の「翻訳者まえがき」に以下の文章がありました。太字は『クラナリ』編集人によるものです。
市場は「発見される」ものではなく「つむぎ出される(fabricated)」ものである、と考えるエフェクチュエーションは、「市場というものが存在する」という前提に立つフィリップ・コトラー流の伝統的なマーケティング・マネジメントに対するアンチテーゼの側面もある。
まず、エフェクチュエーションであるが、コーゼーションと対比して、cause and effectから着想を得ており、「原因と結果」、すなわち、「結果を出す」という語感として用いられる。一方、加護野によれば、毛沢東の「実践論」の主張に近い、ということもあり、「実践」と訳出することも検討したが、(中略)もし日本語の適訳ということであれば、サラスバシー自身が、理論というよりも論理と主張している点も踏まえ、「因果論」の対概念として「実効論」と考えている。
ここで、理論と論理、ついでに法則との違いを調べてみました。
理論 theory
知識体系
個々ばらばらの事柄を法則的・統一的に説明するため、また認識を発展させるために、筋道をつけて組み立てたもの。
a formal statement of the rules on which a subject of study is based or of ideas that are suggested to explain a fact or event or, more generally, an opinion or explanation
論理 logic
筋の通った説明や考え方
議論の筋道・筋立て。比喩的に、物事の法則的なつながり
a particular way of thinking, especially one that is reasonable and based on good judgment
法則 rule
いつ、どこでも、一定の条件のもとで成立する関係。
参考文献
オックスフォード百科事典
エフェクチュエーションの特徴でもあるが、アントレプレナーシップに対して、認知科学の視点から、チェスやスポーツ、語学と同様、熟達の固有領域が存在すると捉え、企業か個人の資質やパーソナリティーではなく、経験学習による意思決定、もしくは、思考法を想定している。
「翻訳者まえがき」から、訳語にかなりの検討を要して、結局「エフェクチュエーション」という言葉をそのまま採用するのがいいだろうという結論になったことがわかります。
また「まえがき」の内容をまとめてみました。
企業家が直面する3種類の不確実性
1 knight流の不確実性
確率分布も結果も道であり、確率や予測される結果を計算することが不可能な状態
2 目的の曖昧さ
選考が所与ではなく、うまく順序づけされていない状態
3 等方性(isotropy)
環境のどの要素に注意を払うべきで、どれを無視するのかが明確ではない状態
knightは、アメリカの経済学者であるフランク・H・ナイト(1885-1972年)のことです。
『リスク、不確実性、利潤』へのyasujiさんのアマゾンレビューを抜粋。
リスクとは、測定可能な不確実性のことであり、一般にこの意味で使われている。ナイトが主張する不確実性は、測定不可能な不確実性のことである。
ナイトは、不確実性の議論から人間は間違いを犯す存在であることをベースに考察し、経済学が前提とする抽象的な合理的経済人を否定している。現在の行動経済学の先駆と言えるようにも思う。
不確実性があっても決断し、その責任をとる人間の所得は、通常の賃金とは異なる範疇の所得であり、それを利潤と呼ぶべきだとナイトは主張する。
不確実性に挑むことが、経営者であることを許す条件なのである。
そんな「不確実性に挑む」「企業家」(アントレプレナー)は場合に応じて、コーゼーションとエフェクチュエーションを使い分けるということになります。
コーゼーション(因果推測) 意思決定の問題、選択を助ける、未来が予測でき目標が明らかで環境が我々の活動から独立している場合に有効、求める結果からスタートしてこれを達成するために何をすればよいかを問う
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| 新市場創造プロセスにおける不確実性と意思決定より |
エフェクチュエーション 設計の問題、構築を助ける、未来が予測不能で目標が不明瞭で環境が人間の活動によって駆動(driven)される場合に有効、手段からスタートし、これらの手段を使って何ができるかを問いかけてからほかにもできることを問う
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| 新市場創造プロセスにおける不確実性と意思決定より |
「手中の鳥」の原則 (The Bird in Hand Principle) 、「許容可能な損失」の原則 (The Affordable Loss Principle) 、「クレイジーキルト」の原則 (Crazy-Quilt Principle) 、「レモネード」の原則 (Lemonade Principle) 、「飛行機のパイロット」の原則 (Pilot-in-the-Plane Principle) と、キャッチーな言葉が並ぶエフェクチュエーション。
ただ、実は「熟達」がけっこう鍵を握っていて、「ドラッカー・ポーター・コトラーなんて聞いたこともないし、学ぼうなんて思わない素人だけど、エフェクチュエーションでいいっしょ!」的なノリで起業は無理だという印象ですね。
熟達した人は、日々の仕事やプライベートで、ドラッカー・ポーター・コトラーの理論を体感で学んでいる気がしなくもありません。
最後に、エフェクチュエーションは、アメリカのマルチな学者であるハーバート・サイモン(1916-2001年)の考えがベースになっているとのこと。サイモンについては、以下で説明がされていました(全然、理解できなかった……)。



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