超文系人間がちょっと細かく調べてみた その6 ブタの膀胱で発見された浸透圧

 浸透圧について、岡山大学のサイトでは次のように説明されています。
 溶質は通さないが,溶媒(水)は通す性質をもつ半透膜を隔てて濃度の異なる溶液が接した場合,低濃度溶液の溶媒が高濃度溶液の方に拡散しようとする現象を浸透現象といい,その圧力を浸透圧という。浸透圧は単位体積あたりの溶媒に含まれる溶質の分子(種類を問わない)の総数に比例する。すなわち同じ重量の溶質が何種類か存在する場合,低分子量の溶質ほど浸透圧に及ぼす影響が大きいことになる。意義として,血清ないし尿の浸透圧を測定することにより体液の濃縮,希釈の傾向を知ることができる。また,血漿中の主要な浸透圧物質は電解質(Na,Cl),グルコース,尿素でこれらは浸透圧調節系で調節されている。

 浸透圧が発見されたのは、1748年です。
 フランスの修道士で物理学者のジャン・アントワーヌ・ノレ(Jean Antoine Nollet、1700-1770年)が、酒を入れた小瓶(a vial of alcohol)を、ブタの膀胱でしっかりと栓をして(covered it securely)、容器の水に沈めていました(into a container of water)。このとき、空気を瓶から追い出していました(purge the alcohol of any air)。6時間後、ブタの膀胱が膨らんでいました。瓶の中の液体は、30cm上に突き出していました。(もう訳せなくなってきた……)

 浸透圧によって起こる現象が報告されたものの、それがどういうことであるのかの考察はなかったようですね。
 それにしても、ブタの膀胱を瓶の栓に使っていたとは! 臭いかも……
 ブタの膀胱は小さくて伸び縮みするので、伸縮性のある食品用ラップで容器を蓋するように、瓶の口にかぶせたのでしょう。

 ちなみに、ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer 1632 -1675年)が活躍した時代は、ブタの膀胱が絵の具チューブとして使われていたそうです。

 また、子どもが遊ぶ風船として、ブタの膀胱は使われていました。その絵がこちら。
ブタの膀胱を膨らませている……(Wikipedia Staatliches Museum Schwerinより)

 子どもたちのかわいらしい表情と、ブタの膀胱……
 「沖縄では、ブタを余すところなく食べる」と聞いたことがありますが、ヨーロッパでも無駄にはしなかったようです。


 話を浸透圧に戻しましょう。
 フランスの医師、植物学者、生理学者であるアンリ・デュトロシェ(René Joachim Henri Dutrochet、1776- 1847年)は、ギリシア語の ἔνδον (éndon "within"), ἔξω (éxō "outer, external"), and ὠσμός (ōsmós "push, impulsion")から、osmosis(浸透圧)という言葉を作った模様。
 植物で浸透圧の研究を行って、浸透計を開発したようです。ですから、「ジャン・アントワーヌ・ノレの発表を受けて」ということではなさそうですね。

 浸透圧の研究はしていませんが、関係の深い電解質について、新しいアイデアを出していたのが、スウェーデンの物理化学者であるスヴァンテ・アレニウス(Svante August Arrhenius)です。アレニウスは、電気など外からエネルギーを加えなくても、電解質は自然に陽イオンと陰イオンに分離すると考えたのです。

 ドイツの化学者のモーリッツ・トラウベ(Moritz Traube)は、1864年に、半透膜のようなもの(highly selective precipitation membranes)を開発して、浸透圧を測定する技術を発達させたとのこと。
 また「トラウベの人工細胞」も知られています。詳細は動画を。



 ドイツの植物生理学者のヴィルヘルム・ペッファー(Pfeffer W、1845- 1920年) は、1877年に、植物の代謝を研究で、浸透圧の研究のために多孔質膜を開発しました。「ペッファー・セル」と呼ばれています。
 ペッファーに関する著作物『分子生理学の先駆者ヴィルヘルム・ペッファー―現代に生きるその研究と洞察』(著/E.ビュンニング 学会出版センター)の内容説明は以下のとおりで、あの進化論のチャールズ・ダーウィンとも交流があったようです。

新生気論、観念論的形態学が未だ残存し、さらにその反動として極端な還元主義が台頭する19世紀末に、生命現象の複雑さを直視してそれを首尾一貫して物理化学的法則で理解しようとした分子生理学の先駆者の足跡。実験生理学的手法を切り拓きながら、植物学者から植物生理学者、さらに一般生理者へと変身してゆく研究者像が、ザックス、ダーウィン等々、当時の自然科学者との交流や激論を通して描かれる。

 浸透圧の研究などで1901年にノーベル賞を受賞したのは、オランダの化学者のヤコブス・ファント・ホッフ(Jacobus Henricus van 't Hoff、1852-1911年)。
ヤコブス・ファント・ホッフ(Wikipediaより)

 1886年に、「希薄溶液の浸透圧は、溶質の濃度と絶対温度に比例する」という「ファント・ホッフの法則」を発見しました。
 ファント・ホッフの式の1つとして、以下があります。

ΠV=nRT

Π[Pa]:希薄溶液の浸透圧
V[L]:溶液の体積
n[mol]:溶質の物質量
R:気体定数 8.3
T[K]:絶対温度


 溶質が同じで、濃度の違う2つの溶液を半透膜の両側に置いたとき、濃度差が大きいほど、また濃度が高いほど、溶媒による濃度の均一化が進みやすいということを示しています。

 物質量とは、物質の量をmol(モル)という単位で表したものです。
 1molとは、6.02×10の23乗 個の原子や分子(ちなみに6.02×10の23乗 はアボガドロ数と呼ばれているとのこと)。12個集めたものを1ダースと呼ぶように、6.02×10の23乗 個の原子や分子をまとめて1molと呼んでいるようです。
 絶対温度は、私たちが普段使っているセルシウス温度(℃)に273を足すと算出できて、単位はKです。


 ところで、 溶液の濃度について、%を使って表すことが多いですよね。例えば、0.9%の食塩水については、100mL (100g)の水に0.9gの食塩(NaCl)が溶けています。
 そのほかにも、次のような濃度の表し方があります。

〇容量モル濃度 mol/L 、M   

 溶液1L に含まれる溶質のmol数です。

 0.9%の食塩水で計算してみましょう。

 まず原子量とは、炭素原子(厳密には質量数12の炭素原子)の質量を12とした場合での、ほかの原子の相対的質量です。1molつまり6.02×10の23乗 個の炭素は、原子量が12です。
 文部科学省の元素周期表には、原子量も記載されています。



 1mol当たり(6.02×10の23乗 個分)のNaClの重さは、Naの原子量22.99と、Clの原子量35.45を足した数で、58.44です。 

 食塩水については、100mlにNaClが0.9gなので、1L つまり1000mL であれば9gが含まれていることになります。この9gを、1mol当たりのNaClの重さ(g)で割ると、何molかがわかります。
 9g÷58.44g=0.1540041
 1l当たり、0.154molのNaClが含まれているということです。
 

〇当量濃度 Eq/ (equivalent/L )

  電解質の濃度を示す単位で、溶液1L に含まれる溶質の当量数です。当量数はmol数に原子価をかけます。
 原子価とは、ある原子または原子団が、ほかの原子といくつ結合できるかを示す数。 言い換えると 「原子の手の数(価電子の数)」 のことです。

 

 0.9%の食塩水で計算してみましょう。
 NaClは、水に溶けるとNa+もCl-に分かれます。
 
 Na+もCl-も、電荷数は1です。
 Na+は0.154mol×1=0.154 Eq/L  、Cl-も0.154mol×1=0.154 Eq/L  となります。

〇オスモル濃度 Osm/L (Osm/kg 水)

 1L の水に含まれる溶質粒子のmol数です。

 Na+は0.154mol、Cl-は0.154mol含まれているので、2つを足すと0.308molとなります。これがオスモル濃度で0.308Osm/L 。
 1000分の1を意味するm(ミリ)をつけたら、308mOsm/L ということになります。

 ただし、これは理論上のことで、食塩が水に溶けてもすべてがイオンになるわけではありません。食塩のままで水に溶けていることもあるわけですね。

実際には、NaClは100%電離せずに、約85%が電離して残りはNaClのままで存在します。そのため、生理食塩水を浸透圧計で実測すると、測定値は285mOsm/Lになります。これは、血漿浸透圧と等しい値です。生理食塩水の電解質であるNa+とCl-は、どちらも1価のイオンなので、当量濃度はいずれも154mEq/Lになります。

■主な参考資料
Wikipedia Osmosis
液体の表面を押し上げる力が浸透圧


Abbe Nollet and Osmosis

ジャン・アントワーヌ・ノレ

「コラム」絵具チューブの歴史

輸液の話

生理学ものがたり第 11 回浸透圧および溶液の移動 その 1

これも「浸透」作用だ! 日常生活で見られる好事例13選

人工細胞の化学
Powered by Blogger.