読み手が疲れない文章を書くには? その3 『理系の文章術』

 『理系の文章術』(著/更科 功 講談社)というタイトルから、「パラグラフ・ライティングに関する本かな」と思っていたのですが、違いました。

文章の中には、読みたくない文章もある。読みたくないけれど、読まなくてはならない文章もある。そういうときに役立つのが、パラグラフ・ライティングだ。

 この下りで、ちょっと笑ってしまいました。
 例えば大学で、学生がちゃんと理解したのか、ちゃんと研究したのかを教授がチェックしなければならないときに、学生にパラグラフ・ライティングで書かせると教授は効率的にチェックができるということです。段落の最初だけを飛ばし読みすれば、内容が把握できるからです。

 理系だからといって「理系は黙ってパラグラフ・ライティング!」というのも短絡的なのでしょうね。
 ちなみに本書の筆者は、紙芝居のような文章を評価しているという印象を受けました。

 文章を書くのは誰のためなのか、何のためなのかを意識することが大切だと、本書では述べられています。
 大量にレポート(しかも、その内容は往々にして未熟)を読まなければならない教授が読者であれば、パラグラフ・ライティング。
 高校生であれば、高校までに習った内容。
 高齢者であれば、ポイントとなることを繰り返し。
 この点は、『「分かりやすい表現」の技術』に書かれていた「おもてなしの心を持て。」と通じます。自分が読み返すだけの日記ならばともかく、誰かに読んでもらいたい文章ならば、「おもてなしの心」が大事。書いている自分が気持ちよくなっているのでは、ダメなんですよね。そんなときは、たいてい支離滅裂な文章になっています。

 また、次の記述は、私がブックライティングをする際に感じていたことでした。

論理的な文章をわかりやすくすると、失われるものとは何だろうか。それは、正確さである。

 私は医師の話を聞いて、ブックライティングをする仕事を多々受けています。医学的な情報を一般書に落とし込む際、特に高齢者が対象読者であれば、「面倒くさい」部分を省略していきます。そうしなけば、本が売れないからです。

 私がこれまでに3回ブックライティングを担当したT医師から聞いた話です。T医師の本を読んだ出版社の人間が、「この本をまとめ直す形で、新しく本を作りたい」という話をT医師に持ってきたのだそうです。T医師は承諾したのですが、まとめ直したという原稿があまりにも不正確で、「本当に、書き直すのが大変だったよ」とT医師が愚痴をこぼしていました。
 つまり、T医師の話をわかりやすくした文章を、さらにわかりやすく作り直すと、T医師の話からかけ離れた内容の文章が出来上がったのです。
 効率よく仕事を進めることは大切ですが、「誰かの話をまとめた本を、まとめ直す」という場合は誤りが発生しやすいと注意する必要があります。
 
 動画などでも同様に、「書籍解説」「歴史解説」では正確さが失われがちです。とっかかりとして動画を見るのはいいのですが、正しいとは思い込まないでほしいものです。



 以下、『理系の文章術』の目次と引用です。

第1章 読者

1・1 読者のことを考える

1・2 二番目に大切なこと

二番目に大切なことは、「読者が誰かを考える」ということだ。
 不特定多数の読者に向けた文章には、それなりの書き方がある。(中略)「ちょっと、この文章はわかりにくいなあ」と思ったときに、頭の中の高校生とお年寄りに読んでもらって、チェックする。

1・3 読者の目的を考える

 読者が誰かによって、文章を変えなくてはならない理由は、読者ごとに(1)知識と(2)目的が違うからだ。

1・4 「論ぜよ」と「述べよ」

「述べよ」とか「説明せよ」だったら、知っていることを書くだけでよい。(中略)しかし、「論ずる」には「推論する」という意味が含まれる(中略)推論には、根拠と結論がなくてはいけない。

1・5 審査員が知りたいこと

1・7 一番大切なこと

1・6 自分も読者

一番大切な意味は何かというと、それは「読者の立場になって考える」ということだ。

第2章 論理と接続

2・1 大江健三郎の文章はわかりにくいけれど

2・2 「そもそも」の意味

2・3 根拠は正しくても結論が正しくない

2・4 論理とは何か

論理とは主張と主張のつながり方である

2・5 風が吹けば桶屋は儲かるか

 100パーセント正しい主張なら、いくつ接続してもかまわない。しかし、ほぼ正しいけれど100パーセントは正しくない主張の場合は、あまりたくさん接続してはいけないのだ。そして、現実の世界における多くの主張は、100パーセントは正しくない主張である。

2・6 逆・裏・対偶

命題 AならばB
逆  BならばA
裏  AでないならばBでない
対偶 BでないならばAでない 

 もしも、ある主張が正しければ、その対偶は必ず正しい。しかし、逆や裏は正しいとは限らない。

2・7 文と文をきちんとつなげる

2・8 接続表現① 順接、付加

(1)付加
 ある主張に別の主張を付け加える。「そして」「また」「しかも」「さらに」「むしろ」などがある。
(2)順接
 根拠となる主張に、その結果となる主張をつなげる。「だから」「したがって」「~ので」「~から」などがある。

 科学ライティングにおいても、統計的な研究を書くときには、データの選び方が適切かどうかをチェックしなければならない。たとえ自分が行った研究でなくとも、自分が書いた文章の内容には、自分が責任を持たなければならないからだ。

2・9 接続表現② 逆説、補足、対比

(1)逆接:後ろの主張に重みがある(しかし、だが、~が、等)。
(2)補足:前の主張に重みがある(ただし、もっとも、等)。
(3)対比:複数のことがらを対等に並べる(一方、また、しかし、だが、~が、等)。

2・10 接続表現③ 換言、例示

(1)換言:前の主張と同じ内容を別の言い方で表す(すなわち、つまり、等)。
(2)例示:前の主張の例を挙げる(たとえば、等)。

2・11 接続表現④ 接続表現を使わなくてよい場合

 接続表現も、赤線と似たようなものである。なくてはならない接続表現も、なくてもよい接続表現も、とにかく何でもかんでも接続表現をつけたら、どれが大事な接続表現なのかよくわからない。

第3章 わかりやすい文章

3・1 わかりやすい文章は最高の文章ではない

正確さを失わない範囲で、少しでもわかりやすく書く努力は続けなくてはいけない。

3・2 文は短く

時間や論理が一直線に進んでいくなら、あまり短文にこだわる必要はないだろう。
 とはいえ、多くの文章では、時間や論理が一直線に進んでいくわけではない。

3・3 文を短くするにはどうするか

3・4 省略できる言葉を削る

文を名詞に変える名詞を形容名詞と言う。形容名詞には「こと」の他にも「ため」「もの」「とき」などがある。この形容名詞は省略できることが多い。

3・5 1つの語句には1つの意味

3・6 便利な語句

3・7 注意すべき語句

3・8 能動態と受動態

(1)文章の内容によって、文を能動態にするのか受動態にするのかを決めること。
(2)主語が明記しにくい場合は受動態を使うこと。

3・9 主語と述語・二重否定
3・10 明確な文
3・11 音がきれいな文
3・12 表記が統一された文


第4章 パラグラフ・ライティング

4・1 論理的な文章の基本
4・2 パラグラム・ライティングの歴史
4・3 パラグラム・ライティングについての誤解

 いろいろな情報や説明を聞いたり読んだりした後でキーセンテンスを読んだ方が、キーセンテンスの意味を正しく理解できる。しかも、最後に聞いたことは一番記憶に残りやすい。だからリンカーンは、キーセンテンスを最後に置いたのだ。ではなぜ、パラグラフ・ライティングではキーセンテンスを最初に置くのか。それをこれから説明していこう。
 パラグラフ・ライティングは、ヨーロッパやアメリカの人がみんな使っている方法ではないし、論理的な文章を書いたり話したりするときに、いつも使っている方法でもない。あくまで限定された状況で力を発揮する方法にすぎない。大学生のレポートや仕事の文書では比類ない力を発揮するけれど、大統領の演説には不向きなのである。

4・4 パラグラム・ライティングとはどういうものか

文章の中には、読みたくない文章もある。読みたくないけれど、読まなくてはならない文章もある。そういうときに役立つのが、パラグラフ・ライティングだ。
 パラグラフ・ライティングの精神は、この「あらすじ」に近い。あらすじなんか読んだって楽しくもなんともない。だけど、あらすじにはよいことがある。それは短時間で内容が摑めることだ。

4・5 パラグラム・ライティングのルール①

何よりも大事なことは、1つの段落では1つのトピックだけを述べることだ。
〔ルール1〕1つのパラグラフでは、1つのトピックだけを述べる。
〔ルール2〕1つのパラグラフは、1つのキーセンテンスと複数のサブセンテンスから成る。
〔ルール3〕キーセンテンスはパラグラフの最初に置く。

 トピックから外れたことを書かないのは、当たり前に思えるかもしれない。でも、これがなかなか難しいのだ。
 面白いことや意外なことを知ると、誰でも人に話したくなる。文章も同じで、つい書きたくなることって、あるのだ。でも、どんなに書きたくても、それがトピックから外れていたら、書いてはいけない。

〔ルール4〕キーセンテンスは直前のパラグラフの最後の文につなげるのではなく、直掩のパラグラフのキーセンテンスにつなげる。
〔ルール5〕サブセンテンスは、前後のパラグラフのキーセンテンスではなく、そのパラグラフのキーセンテンスだけにつなげる

4・6 パラグラム・ライティングのルール②

〔ルール6〕1つの文章は、1つのキーパラグラフと複数のサブパラグラフから成る。
〔ルール7〕キーパラグラフは文章の最初に置く。

〔ルール8〕キーパラグラフは短くする。
〔ルール9〕場合によっては、キーパラグラフのキーセンテンスは、パラグラフの最初でなくてもよく、キーセンテンス自体がなくてもよい。

4・7 パラグラム・ライティングのルール③

パラグラフ・ライティングで一番難しいのは、キーパラグラフの書き方なのだ。キーパラグラフの最初にキーセンテンスが置けるときはよいけど、それができないときもある。でも、そういうときのために、別のうまい方法がある。
 キーパラグラフが文章全体の要約になっており、かつキーセンテンスがそれぞれのパラグラフの要約になっているとすれば、すべてのキーセンテンスの内容を合わせれば、だいたいキーパラグラフの内容になるはずだ。

〔ルール10〕場合によっては、キーパラグラフの内容と、サブパラグラフのキーセンテンスの内容を対応させるのもよい。
 

4・8 パラグラム・ライティングの論理①

〔ルール11〕なるべくサブセンテンスでは、文末に新しい情報(未知の情報)を置き、次の文頭でその情報(既知になった情報)を受ける。

4・9 パラグラム・ライティングの論理②


第5章 科学ライティング

5・1 創造論者の考え
5・2 科学の成果はすべて仮説

演繹と推論の大きな違いは、演繹では100パーセント正しい結論が得られるが、推論では100パーセント正しい結論は決して得られないことだ。しかし、科学で重要なのは推論だ。

 さて、推論には、機能、類似、アブダクションなどがある。帰納とは、多くの個別の例から一般的な法則を導く方法だ。

 類比とは、2つの事柄のあいだで、ある特徴が似ているとき、別の特徴も似ていると考える方法だ。病気の研究などで、ヒトの代わりに他の動物を使う動物実感は、この類比の例である。

 アブダクションは、「ある事柄をうまく説明してくれる仮説があり、その他に有力な仮説がない場合に、その仮説はおそらく正しい」とする推測である。「仮説形成」や「仮説推論」と訳されることもある。(中略)また「最良の説明への推論」と言われることもある。 

5・3 仮説の検証

検証:仮説の審議と確かるために、観察や実験などを行うこと。
実証:検証の結果、仮説を支持する結果がでること。
反証:検証の結果、仮説を支持しない結果がでること。

5・4 仮説が反証されたとき
5・5 反証可能性

 仮説の場合は、実証されればされるほど、その仮説は良い仮説になっていく。仮にこの世界に真理というものがあったとしよう。しかし仮説は、決して真理の域に到達できない。反証される可能性がゼロの仮説なんてないからだ(というか、すぐ後で述べるように、反証可能性がゼロの仮説は、科学では扱わない)。(中略)仮説は、真理になるのは無理でも、理論にはなれるのだ。

5・6 アドホックな仮説

仮説を生き延びさせるために後からつけ加えた仮説をアドホック(その場しのぎ)な仮説という。(中略)
 つまり、アドホックな仮説は、後出しジャンケンのようなものである。

5・7 アドホックな仮説が認められる場合

アドホックな仮説をつけ加えることによって、反証可能性が高まることだ。

5・8 仮説は単純なほど良い
5・9 推測では新しい情報が得られる
5・10 推論のまとめ
5・11 仮説とシナリオ

シナリオと呼ばれるもので、観察事実や仮説から推測されるという点では、仮説と同じである(仮説からさらに仮説を立てるということは、よくある)。ただし、仮説は検証できる形になっていなければならないが、シナリオの場合は必ずしも検証できる形になっていなくてもよい(もちろん、なっていてもよい)。

科学ライティングでは、いつも科学の限界について意識していなくてはいけない。「断定する文」をある程度使うことは仕方がないが、どこが仮説やシナリオであるかは、読者にわかるようにしなくてはいけないのである。

第6章 科学と社会の架け橋

6・1 紙芝居のような文章

流れるような話とか流れるような文章とか言われるのは、こういう紙芝居的なものだろう。
 一方、パラグラフ・ライティングでは、必ずしも連続性を重視しない。(中略)連続性よりも飛ばし読みができる効率性を重視しているわけだ。

6・2 トピックの並べ方

 1つ目は、自然な順序に並べることだ。たとえば、時間の経過に沿って並べるとか、一般的な話題から始め個別な話題で終わるとか、読者が知っていそうなことを述べてから知らなそうなことへ発展させていくとか、そういう順序が自然な順序である。

 さて、2つ目の注意すべきポイントは、重要なことは繰り返すことだ。

いくら論理がしっかりした文章でも、読者が前に読んだことを忘れてしまえば、内容を伝えることはできないからだ。
 とはいえ、同じ話を2回繰り返したら、読者は飽きてしまう。そのため、2回目は少し形を変えた方がよい。

6・3 何を書かないか

何を書くかを決めるためには、何を書かないかを決めないといけないのだ。
 これは、文章の長さには関係ない。
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