「金儲けと自己実現を混同しないでほしい」という話がしたい ~マルチ商法は破綻することが運命づけられているビジネス
「あなたに伝えたいことがある」「パーティーに一緒に行こう」「きっとあなたのためになる」と、女性に次々と声をかける若者がいました。
30年ほど前のことです。
とある県人会に、若い男性が入会しました。彼は積極的に周囲に話しかけ、明るく振る舞っていました。私も彼と名刺交換しました。
後日、彼からメールが来ました。「あなたに伝えたいことがある」「一緒にパーティーに行こう」「きっとあなたのためになる」といったことが書かれています。
私はメールを削除し、名刺を捨てました。
私は彼を「変な奴」程度にしかとらえていませんでしたが、ほかの女性たちは違いました。ひどく気持ち悪がって、県人会の主催者に彼を追い出すように訴えたのです。ちなみに、彼は若い女性にばかり連絡を取っていました。
主催者が彼に出入り禁止と伝えたら、「僕はみんなのためになることをやっているのにぃ!!」と激怒したとのこと。
後で聞いたところ、彼は鍋や洗剤を売るマルチ商法(連鎖販売取引、ネットワークビジネス)の会員でした。
県人会は、ビジネスや仲間・恋人探しが目的で参加している人がほとんど。その意味で、彼は周囲の人と何ら変わりはありません。
決定的な違いは、金儲けと自己実現・恋人探しがワンセットになって、彼自身、自分が何をしているのか、本当のところはわかっていなかったことです。
マルチ商法は自己啓発と実によくなじみます。「鍋や洗剤を売って金儲け」「勧誘して金儲け」を、「他者に喜ばれ自己実現できる」と思い込む"純粋"な分だけタチが悪いのです。
現実の生活では、料理人でもない限り、高価ですばらしい鍋を複数持つ必要はありません。洗剤も手もとのものが切れたときに買うわけで、たくさん売り込まれても置き場に困ります。
また、たとえ自分が気に入った商品でも、家族や友達に「鍋、買わない?」「洗剤、買わない?」と勧めるのは押し売りのようなものです。
鍋や洗剤がたくさん売れれば、自分が儲かるだけのこと。それがきっかけで、周囲に自分の価値を認めてもらえる、彼女ができるなどと彼が思ったとしたら、それは金儲けと自己実現と色恋が絡んだ妄想です。
マルチ商法は、「まだ商品の認知度が低い」という段階で販売した人しか儲からないというビジネスです。
世の中は、マルチ商法をはじめ、詐欺事件や詐欺まがいの話が絶えません。
例えば、格安で大規模イベントに出店できると勧誘し、出店料を集めたうえでイベントを延期するという、詐欺だと疑われている事件がありました。相場よりも安すぎる・高すぎるときには、金儲けと自己実現を絡ませた価格による心理操作が行われていたことも珍しくありません。
また、SNSが普及した今では、子どもを対象にした詐欺も発生しているとのこと。
そして、2022年4月1日に成年年齢が引き下げられたことから、18・19歳の消費者トラブルが懸念されてきました。
宗教と政治の問題に詳しいジャーナリスト・作家の鈴木エイト氏が、テレビ番組で紹介した内容を中心に勧誘の手口をまとめました。旧統一教会のような新興宗教と同じ手口を、マルチ商法も行っています。
接触方法
●「アンケートにご協力ください」などと声をかける
●SNSを利用する
●河川清掃やSDGs、朝活、ゴスペル、フットサルなどのイベントに誘う
取り込み方法
●こちらの愚痴やつまらない話などを、熱心に聞いてくれる
●お菓子や食事を用意してくれる
●1カ月から半年ほどは、親密さを高めるために時間を使う(すぐに勧誘しない)
利用しているテクニック
●返報性
人から何かをしてもらったら、お返しをしないと申し訳ないといった感情が働く心理を「返報性」といいます。「私の話をよく聞いてくれたから」「食事をごちそうになったから」と、ターゲットの「なんだか悪いな……」という心理を突くテクニックです。
●権威への服従
大学の教員や政治家、芸能人などを、新興宗教やマルチ商法に関わる人々は広告塔として利用します。こうした著名人には一種の権威があり、多くの人はなんとなく信じ込んでしまうからです。
「世間の人間を見て、最も驚くことはどんなことでしょうか」という質問に、ダライ・ラマ14世は次のように答えたとのこと。
金を稼ぐために健康を害し、今度は病を治すために、稼いだ金を使う。将来の心配ばかりをして、現在を楽しむことをしない。その結果、人々は現在にも未来にも生きていない。あたかも人生が永遠に続くかのように生きているが、真の意味での人生を全うすることなく死んでゆく。
人生を全うするために、金儲けと自己実現を混同しないことも大切ではないでしょうか。


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