腸管免疫について、小腸と大腸での違い
よく知られていますが、腸には小腸と大腸があります。小腸も大腸も、表面積が広く、内側は粘膜で覆われています。
腸の粘膜は、食物や微生物、腸内細菌(ウイルスなども含む微生物)といった異物(抗原)に常にさらされています。そのため、病原体が粘膜から侵入しないようにする免疫機能(腸管免疫)が発達しています。
この「腸管免疫」という言葉もテレビCMその他でよく耳にしますが、小腸と大腸とでは仕組みが異なります。
小腸
小腸は、内側から、粘膜(粘膜上皮、固有層、粘膜筋板)、粘膜下組織、筋層(輪状筋・縦走筋)、漿膜の4層で構成されています。
粘膜上皮の柔毛(絨毛)にには、粘液を産生する杯細胞、またクリプト(腸陰窩。小腸や大腸の粘膜表面にある小さな窪み〈腺窩〉で、腸上皮細胞を供給する幹細胞が存在する)の底部には抗菌物質を産生するPaneth(パネート)細胞があります。
小腸の細菌の一部は、回腸(小腸の後半)のパイエル板というリンパ組織の集合体の表面に散らばっているM細胞に取り込まれます。
| 特殊な腸管上皮細胞,M 細胞の生物学より |
腸内細菌などの抗原に対する、M 細胞の腸管免疫応答誘導
1 M 細胞に現れる glycoprotein2(GP2)などの細菌受容体が、結合した菌を細胞の中に取り込んで基底膜側まで輸送し、樹状細胞などの抗原提示細胞に受け渡す
2 樹状細胞が細菌を受け取って分解し、抗原の断片を T 細胞に提示する
3 T 細胞は活性化され、ほかの細胞へ情報を伝達するタンパク質であるサイトカインを分泌し、B 細胞に指令を送る
4 B 細胞は分化・成熟して、抗体であるIgA(免疫グロブリンA)を産生する
5 IgA はクリプトや、柔毛の腸管上皮細胞に現れる多量体 Ig 受容体で、腸管腔内に分泌され、細菌を排出したり、監視したりする
樹状細胞やT 細胞、B 細胞といった人間の免疫細胞の50%が、小腸にあります。
また、パイエル板や上皮から取り込まれるのは細菌だけでなく、フラボノイド、ビタミンなども挙げられています。
抗体の働きは、次の3つです。
①中和反応とは細菌や毒素などの抗原に抗体が結合すると抗原の作用が中和(無力化や無毒化)することです。すなわち、抗原に抗体が結合すると抗原が自由に動けまわれなくなったり、立体構造が変化したりして毒性が失われます。②貪食細胞の食作用を促進させるは貪食細胞には抗原と結合した抗体を認識するレセプター(Fcレセプター)が存在しています。貪食細胞はこのレセプターで免疫複合体と結合することで抗原を貪食しやすくし、素早くより多くの抗原を貪食することがでるようになります。③補体を活性化させるについては、補体という言葉を初めて聞く高校生もいると思いますので以下で詳しく説明しますが、抗体が細菌と結合すると血液中に存在する補体が活性化されます。その結果、最終的に補体は抗原である細菌などに穴をあけます。
※補体とは、溶菌作用を示すタンパク質分解酵素など
なお、生きた細菌は腸管内で凝集されるため、パイエル板には取り込まれにくいことがわかっています。凝集されるのは、小腸を細菌感染から守る働きという報告がありました。
腸管内容物に含まれるGP2と腸内細菌を注意深く観察してみると、GP2が腸内細菌と結合し凝集している様子が示されました
(注1)Glycoprotein2(GP2)
膵臓の腺房細胞で作られ、膵管を通じて十二指腸へと分泌されるタンパク質。腸管の管腔にいる腸内細菌のうち5%程度に結合している。炎症性腸疾患では抗膵臓抗体ができることが報告されており、抗体の多くがGP2を認識しており、GP2の働きを阻害している。膵臓からのGP2の分泌は、炎症を知らせるサイトカインであるTNF(腫瘍壊死因子)によって増加し、粘膜組織を守る第一線のバリアとしての役割を担っている。
そして小腸には免疫寛容という仕組みも備わっていて、体にとって無害な抗原に対しては、抗体を作るなどといった免疫反応を起こしません。
食物などと一緒に取り込まれた微生物は、多くが胃酸や胆汁酸で殺されるため、小腸にはあまり入ってきません。また胃酸や胆汁が小腸に入ってくるので、小腸では腸内細菌の数も少なくなっています。
小腸で細菌が異常増殖するSIBO(小腸内細菌異常増殖症)では、食物の未消化な糖質を細菌が発酵させてガスを発生させ、腹部膨満や栄養吸収阻害を引き起こします。
なおパイエル板については、1677年、スイスの医師であるパイエル (Joseph Conrad Hans Peyer)が、小腸内壁のヒダを覆う絨毛は、小腸内部に均一に生えているのではなく、ところどころ絨毛が未発達の領域がパッチワーク状に点在していることを見出し、Peyer's patch(パイエル板、パイエルのパッチ)と名付けました。
大腸
小腸で食べ物が消化吸収された後の、液状の残りかすから、大腸は水やナトリウムを吸収して固形の便を形成します。
大腸の壁は内側から順に,粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜下層,漿膜の5つの層で構成されています。
大腸は、胃酸や胆汁酸の影響が少ないため、多種多様な腸内細菌がすみ着いています。アルカリ度が高くなりやすい分だけ、有害な細菌が増えやすいともいえます。
腸内細菌は、残りかすに含まれている水溶性食物繊維や難消化性オリゴ糖を発酵・分解して、短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸など)を生成します。短鎖脂肪酸は、大腸上皮細胞のエネルギー源になると同時に、大腸の中を弱酸性に保って善玉菌を優勢にします。
加えて、腸内細菌は、ビタミンK、ビタミンB群(B1、 B2、 B6、 B12、 パントテン酸、 ナイアシン、 ビオチン、 葉酸)を合成します。
腸内細菌が作った短鎖脂肪酸とビタミンは、単純拡散とトランスポーターで大腸から血液に取り込まれますが、ほとんどが単純拡散での吸収だといわれています。血液に乗って短鎖脂肪酸とビタミンは全身を巡り、免疫を向上させます。
なお善玉菌のビフィズス菌は、酸素がほとんど届かない大腸の最後部、S状結腸から直腸までにすんでいます。
■主な参考資料
「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」
腸内細菌と制御性 T 細胞
提 言 我が国における微生物・病原体に関するリテラシー教育

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