初詣は、バレンタインデーのチョコと同様、商業的に成立した行事だった
2月14日はバレンタインデー。この日が近づいてくると、「バレンタイン・キッス」(歌/国生さゆり)がテレビでは流れ、有名女優を使った菓子メーカーのCMが始まり、デパートもスーパーも「これでもか!!!」とばかりに多種多様なチョコレートを陳列し、熱のこもった販売を行っています。
そんな日本の一大行事は、1970年代後半に成立したとのこと。「毎年2月に売り上げが落ちることに頭をかかえていた菓子店主が企画を発案した」とWikipediaには書かれています。
日本型バレンタインデーの由来が広く知られている理由の一つは、横文字が使われているからだと考えられます。なんせ「バレンタイン」ですから、日本の伝統行事だなんて思わないわけですね。
それでは「初詣」はどうでしょうか?
1年の始まりに寺社仏閣を参拝し、無事と平安を祈る……
なんだか日本の伝統行事の雰囲気がありますよね。
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| photo/ぱくたそ |
しかし、初詣が成立したのは明治中期。しかも、鉄道会社が仕掛けた一大イベントだったのだそうです。
ですから、バレンタインデーにチョコレートを贈る行事と、初詣とは、成立した背景が変わらないわけです。
東京大学で、初詣をテーマに学位論文を書いた平山昇氏(現在は神奈川大学 国際日本学部国際文化交流学科 准教授)の著書『鉄道が変えた社寺参詣』(交通新聞社新書)の内容を中心に、今回は初詣の由来について紹介します。
私たちのような民衆の“信仰心”が盛り上がりを見せたのは、江戸時代。有名なのは、お伊勢参りです。庶民が集団で伊勢神宮に参詣するのですが、この様子を面白おかしく描いたのが『東海道中膝栗毛』(著/十返舎一九)です。
また、江戸時代後期の「ええじゃないか」も、一種の“信仰心”から始まったもので、「ええじゃないか、ええじゃないか」と連呼しながら激しく民衆が踊ったとのこと。
狛犬や道祖神がたくさん作られたのも、江戸時代だったのだそうです。
| 葛飾八幡宮の狛犬 |
恵方とは、歳徳神(としとくじん、とくどさん、別名「年神、歳神(としがみ)」)がいるとされる方向で、方位学を用いる陰陽道の考え方もベースにあるようです。
恵方は、毎年変わります。
例えば、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二支(じゅうにし)が、毎年、年賀状に描かれますが、十二支と同様に使われているのが十干(じっかん)です。
十干には、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10の要素があります。
江戸時代までは、時刻や方位を十二支と十干を使って表していました。Wikipediaと、なぜか横浜市泉区のサイトに、非常によい図版がありましたので引用させてもらいます。
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| 横浜市泉区のサイトより |
恵方については、以下のとおりです。
■年の十干→十二支
乙・庚→申酉の間
丙・辛→巳午の間
戊・癸→巳午の間
丁・壬→亥子の間
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| Wikipediaより |
明治になり、近代化が進む中で「恵方」という考えが廃れたかというと、そうではありません。私たち日本人は、開運ネタが大好きなんですよね。
当時は鉄道の敷設も進み、「ちょっと奮発して電車に乗って、恵方詣」が庶民の間でブームになったのだそうです。
しかし、恵方詣だと、参拝客が集中する寺社が限定されます。恵方に当たらない寺社の正月風景は寂しくて、さらに人口の多い東京と恵方に当たらない寺社とを結ぶ鉄道ももうからないわけです。「それは嫌」とばかりに、「恵方でない寺社も参拝しましょう」というキャンペーンを、鉄道会社が行ったわけです。
これが初詣の始まり。
結果として、大正になると「初詣に行きましょう。そういえば恵方の神社は○○です」というように、メインが初詣、サブが恵方詣と逆転してしまいました。そして今日に至ります。
私たちのような庶民は、恵方をいちいち調べるのは面倒くさいものです。そういえば一時期、コンビニエンスストアで盛んに「恵方巻」がPRされていたのですが、定着しなかったのも「恵方とか、考えること自体が面倒」という庶民感覚が関係したのかもしれません。
平山氏は以下のように語っています。
初詣は“正月にどこかにお参りする”という以外には特に中身がない曖昧な言葉であり、その曖昧さゆえに鉄道会社はこれを毎年の宣伝に活用するようになった。
「本命チョコ」「義理チョコ」「無理チョコ」といったバレンタインデー商戦と同様に、鉄道各社が参拝客集めを競い合い、賽銭収入というメリットと伝統の維持との間で揺れ動く寺社と駆け引きを行って、初詣が成立したということです。
平山氏の指摘が興味深かったので、引用します。
現在では年末が近づくと「初詣はどこにお参りすべき?」「初詣の正しい知識」などといった新聞・雑誌記事やネット情報が数多く出回る。なかには"初詣は氏神様にお参りするのが正しい"などとまことしやかに説く専門家(を称する人々)も少なくない。しかし、繰り返しになるが、初詣はもともと恵方だの初縁日だのといった細かいことにこだわらずにお詣りするという、きわめてアバウトな行事として成立し、そのアバウトさに利用価値を見出した鉄道会社のPRによって社会に定着していったものなのである。それにもかかわらず、誕生からわずか100年あまりで、あたかも「初詣の正しい伝統」などといったものが古来からあるかのように説明する語り方が定着しているわけである
平山氏の指摘する「自称 専門家」には、これまでの仕事で数人会ってきたので、この文章を読んで思わず吹き出してしまいました。
伝統的な初詣というものがあるとしたら、「移動には電車を使って、アバウトに寺社を参拝すること」なのかもしれません。
■参考資料
『鉄道が変えた社寺参詣 - 初詣は鉄道とともに生まれ育った』(著/平山昇、交通新聞社新書)
http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=127621
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| 14年前にリリースされた「バレンタイン・キッス」 |





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