「誰もが幸せになり充実感を味わえるお金の使い方」なんてものは存在しない 『アート・オブ・スペンディングマネー―1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』
美容医療をテーマにしたNetflixのドラマが話題になっています。SNSで「整形に1000万円課金した」などの投稿を目にすることも多々ありました。
美容整形の手術は高額ですが、それを受けて幸せになった人はあまり見かけません。整形をして、インフルエンサーやキャバ嬢になって、お金を稼いで、整形をして、お金を稼いで、整形をして……といったループにはまりやすいからかもしれません。かつて「扇風機おばさん」と呼ばれた、整形依存の女性もいました。
美容整形の手術を受けたい人の一部は、顔の造形が変わることで人生も大きく変わることを期待しているのでしょう。しかし、期待は裏切られがちで、期待と現実とのギャップが大きいほど心理的に不安定になり、イライラが募ります。
Aさんが美容整形にお金を使い、キャバ嬢になって大金が得られたとしましょう。SNSでそれを知った一般的な職業のBさんが、「いいな、私もAさんのようにきれいになって、幸せをつかみたい」と思って手術を受けたとしても、職場での周囲の対応が何一つ変わらず、自分のタイプではない異性につきまとわれるばかりであれば、Aさんのような幸福感が得られない可能性は高いのです。もちろん、AさんがSNSでキラキラ感を演出していても、実際に幸せな気持ちを味わっているかどうかはスマホの画面越しではわかりませんが。
私たちは、先人たちの教えに従い、「望む未来は引き寄せられる」的な期待をかけて、大金を使いがちです。しかし、期待が大きければ大きいほど、後でみじめな思いを味わいがちでもあるわけです。
『アート・オブ・スペンディングマネー―1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』(著:モーガン ハウセル ダイヤモンド社)では、お金の使い方に関して「誰もが幸せになり充実感を味わえる、不変的な法則など存在しない」と述べられていました。
本書の副題である「1度きりの人生で『お金』をどう使うべきか?」という問題への答えは、科学ではなく、アート。つまり、再現性のない、知恵や技術ということです。
「お金の使い方を、個性や貪欲さ、嫉妬、ステータス、後悔といった複雑な要素から紐解く」のが本書で、序章では、全21章を貫く6つのテーマが紹介されています。
1.お金の使い方は2つある「より良い生活を送るための道具」「他人との比較で自分のステータスを測るための物差し」2.お金は有効な道具だが、注意しないと簡単に支配されてしまう3.お金を使って幸せになることはできるーただし、それは間接的な形を取る場合が多い4.お金について考え過ぎない人ほど幸せになれる5.もっとお金があれば幸せになれるわけではない6.お金の使い方に普遍的な公式はない
以下、各章を自分なりにまとめました。
第1章 十分な情報があれば、あらゆる行動は意味をなす
自分であれ他人であれ、誰かの消費行動を理解したいのなら、まずは「人は単に楽しいことや役に立つと思うものにだけお金を使うわけではない」という事実を覚えておこう。人の消費に関する決定は、それまでの人生での社会的・心理的な経験を反映していることが多い。
美の基準は民族ごとで異なります。タイやミャンマーの山岳少数民族であるカヤン族は、首の長い女性が美しいと思われていることで知られています。
| 出典:タイ北部の山岳に暮らす首長族カレン・パドゥン族の暮らしを訪ねる旅 |
日本で暮らす私たちは、「首が長すぎるのは、ちょっと怖い……」「リングが重そう」と信じられない気持ちになります。
しかし、カヤン族の女性たちにとって、真鍮のリングを手に入れて、首にはめることに大きな意味があるわけです。
お金の使い方やその価値について、万人に当てはまる答えは存在しない。
「首が長すぎるのは、ちょっと怖い……」といった恐れ、さらには喜びや怒り、楽しみといった感情は、「それまでの人生での社会的・心理的な経験を反映していることが多い」と、確かにいえそうです。
感情は学習によって形成されるのだ。感情は、私たちが育った文化や環境の産物である。
首が長いことが美しいかどうかというのは、正しい・間違いで判断する問題ではありません。
ある文化では常識とされることが、別の文化では不条理で、時代に遅れに見えることもある。
ポイントは、狭い範囲で「こうあるべきだ」と常識になっているルールにとらわれ過ぎないこと。
お金の問題の多くは、世間で「こうあるべきだ」と言われている方法でお金を使ったり貯めたりしているのに、それが自分の価値観に合わないことから生じている。人々は本来はとても個別的であるはずの問題に対して、万能薬を求めている。まるで、本当の自分ではない誰かとして人生を歩もうとしているかのように。
この章は、2つのアドバイスで締めくくられていました。
1.何にお金を使うべきか、使うべきでないかを、誰かに指図されてはいけない。唯一の「正しい方法」などない。どうすれば幸せになり、充実感を得られるかは、自分自身で見つけ出す必要がある2.他人のお金の使い方を尊重する
第2章 アテンション・プリーズ
あなたは、「良い物が欲しい」と思っているかもしれない。だが、本当に求めているのは尊敬や称賛、注目だ。
このようなリードのとおり、私たちはお金を欲しがっているようで、実は注目を求めているのです。だからアテンションプリーズ。
アラン・ド・ボトンの著書から、次が引用されていました。
「社会的階層を上げたいという欲求の背後にある主な衝動は、高い地位を得ることで獲得できる物質的な富や権力よりも、その結果として受け取ることができる愛の量に根ざしているのかもしれない」
また、ウォーレン・バフェットの言葉も引用されていました。
「私くらいの年齢になると、自分の人生を、“愛してほしいと思っている人たちから、実際にどれくらい愛されているか”で測るようになる」
ポイントは「誰に愛されたいのか」「誰から尊敬や称賛、注目を求めているのか」ではないでしょうか。人によっては、お金は関係ないかもしれません。お金がなくても愛してくれる人、尊敬してくれる人はいるからです。もちろん、愛される、または尊敬される行動は必要ですが。
第3章 収入<期待=不幸
この章の日本語タイトルが秀逸です。期待が大きいほど、不幸も大きくなりやすいことを示しています。そして、期待していたよりも現実(収入)のほうがよければ、喜びも幸せも大きくなります。
私が知っている最も幸せそうな人たちはたいてい、自分が手にしているものに満足している。
多くを期待しすぎないことで、心が豊かになる。これは、誰にとっても重要な視点である。お金に関して言えば、それは適切な期待を持つことから生まれる。
重要なのは、どんなライフスタイルを送っているかにかかわらず、ないものねだりをしないことが幸福の鍵であるのを忘れないことだ。
第4章 見えざる真実
第5章 最も価値ある資産
序章で、「より良い生活を送るための道具」「他人との比較で自分のステータスを測るための物差し」が登場しました。
○お金=「より良い生活を送るための道具」→内的な基準(自分の満足)
○お金=「他人との比較で自分のステータスを測るための物差し」→外的な基準(他人の評価)
そして、第2章とも関係しますが、赤の他人を人生の物差しにする必要はないのです。
他人、特に見知らぬ人に見栄を張る必要がないことは、あなたの個人的なバランスシート上で、何よりも価値のある資産になり得る。
誰もが、周りの目を気にせず、自分だけの価値観に従いたいと思っている。好きなことを、好きなときに、好きな人と一緒にしたいと思っているのだ。そして、それこそがお金を得ること、使うことの最大の目的だ。
第6章 あなたを幸せにするもの
第7章 金持ちと真に豊かな人の違い
第8章「実用性」対「ステータス」
第9章 リスクと後悔
お金を使う際の最良の選択は「後悔を最小限にすること」で、ジェフ・ベゾスの言葉が引用されていました。
私は、決断をすごく簡単にするフレームワークを発見した。私はこれを、「後悔最小化フレームワーク」と呼んでいる。それは80歳の自分が人生を振り返ったとき、できる限り後悔を少なくするような決断をするというものだ。
後悔を最小限にするために高いお金を支払う必要はなく、後になっても「面白かったね」「懐かしいね」と振り返られるような体験、また、思い出作りの時間を確保するために、それに見合うお金を使えばよいということです。
最近では、「物ではなく体験にお金を使おう」というアドバイスがすっかり定着するようになった。これは、悪いアドバイスではない。しかしそこには、「思い出を残すには、高いお金を払って海外旅行などの体験をしなければならない」というニュアンスが感じられる。だが、必ずしもそうとは限らない。高いお金を払って何かを経験しても、ほとんど記憶に残らないケースもある。一方で、高校時代に友人と過ごした時間は、お金はかかっていなくても、宝物のような思い出になり得る。
「思い出を残すには、高いお金を払って海外旅行などの体験をしなければならない」が、世間では「こうあるべきだ」と常識になっている点を、著者は指摘しています。消費者を煽るコマーシャルの影響もありそうです。
第10章 他人と自分を比べないための知恵
他人と自分を比較するのは、社会で暮らす私たちにとっては当たり前で、避けられません。ですが、お金の使い方については区別しておきたいことがあると著者は述べています。
他人が持っているものに動機づけられること(基本的には良い)と、他人が持っているものを羨ましがること(常に危険)のあいだには、実は明確な境界線があるということだ。
前者は「よし、私も頑張ろう」とやる気につながりますが、後者は嫉妬、そして不満につながります。
さらに、赤の他人を基準にすると、嫉妬や不満は募るばかりです。
誰もが、自分が選んだ社会集団にあった人間でありたいと思っているし、そのために身だしなみを整えたり、時間の過ごし方を工夫したりする。しかし、あまりに多くの見知らぬ人々の基準に合わせようとしすぎると、自立どころか、満足すら得られなくなる。
私たちは社会的動物であり、どの共同体に属するかで幸せや豊かさの基準は異なってきます。
「あなたがどんな人間かは、あなたの親しい友人を3、4人見ればわかる」。これは人生の様々な側面に当てはまる真理だ。
結局のところ、誰と一緒に長く過ごすかが、お金の使い方、ひいては人生を左右するわけです。
誰と付き合うかは、お金をどれだけ稼ぐか、どれだけ使うかと同じくらい、あなたの幸福に大きく影響する。
第11章 自分で選べない人生は、一種の貧困である
「思い出を残すには、高いお金を払って海外旅行などの体験をしなければならない」という風潮があることは、第9章で紹介されていました。
この章では、「せっかくお金があるのだから、もっともっと使わなければ後悔する」と思う必要はないと著者は述べています。
あなたは今まで稼いだお金を、すべて使っている。銀行口座にあるお金も、意識しているかどうかにかかわらず、あなたはすべて使っているのだ。あなたはこの使っていないお金で、目に見えないが価値のあるものをすでに買っている。それは自由であり、自立であり、自分の好きに過ごす時間である。
つまり、貯蓄はお金を放置しているのではなく、自由・自立・経済的安定を“買って”、あるいは“飼って”いるといえそうです。
ジョン・アーシェルの言葉が引用されていました。
「私は億万長者ではない。だが経済的に安定していて、金の心配をする必要はない」
第12章 社会的負債
第13章 静かな複利
第14章 アイデンティティ
ポール・グレアムの「アイデンティティは小さく保つべきだ」という言葉とともに、以下が引用されていました。
「自分にレッテルを貼れば貼るほど、人は愚かになっていく。人は、自分のアイデンティティの一部となったものについて客観的に考えにくくなるからだ。だから、自分のアイデンティティとして取り入れるものは、できる限り少なくすべきだ」
「金持ちだ」「倹約家だ」などのように、お金にまつわることをアイデンティティにする人は、お金に支配されます。
人生の早い段階で貯蓄の習慣を築き、収入より少ない額で十分に良い生活をする術を身につけたのなら、それは素晴らしいことだ。けれども、その習慣からいつまでも抜け出せず、老後もずっと貯蓄に固執しているとしたら、それは果たして成功と言えるだろうか?
第15章 新しいお金の使い方を試す
お金とアイデンティティを切り離す方法が、この章で紹介されています。
予算の許す範囲でできる限り多くの種類のお金の使い方を試し、自分に合わないと思ったものは素早く、躊躇なくやめることだ。食事、旅行、服、スポーツイベント、体験など、何でもいいので、新しいことにお金を使ってみよう。ただし、もしそれによって喜びを感じられないのなら、すぐにやめること。面白くないと思った本を、途中で読むのをやめるのと同じだ。これを十分に繰り返していくと、消去法で、自分がお金を使うにふさわしい何かが見つかる。
第16章 お金と子ども
第17章 表計算シートは感情を気にしない
お金の使い方だけでなく人生全般において、損得計算を捨てて、直感で「これだ!」と動くタイミングがあります。
人生を変えるような、自分や家族に大きな影響を与え得る決断を、表計算シート上で解ける問題として扱うべきではない。
一般的に、お金は数学に基づいた分野だとみなされがちだ。そのため、合理性や効率性、計画性といった視点のみでお金の問題をとらえようとして、結果として失敗してしまう人は多い。
第18章 小さな支出との付き合い方
塵も積もれば山となる。例えば1本100円のペットボトルのお茶を毎日買えば、1年で3万6500円。10年で36万5000円となります。
一方で、ペットボトルなど少額の瑣末な出費を気にしすぎると、美容整形などで提示される数百万単位のお金に頭が働かなくなりがちです。
小さな節約を積み重ねれば、それが大きな金額になることもある。だが同時に、それはもっと大きな問題から注意を逸らすことにもつながりかねない。
お金をうまく扱うには、大小の両極端のバランスを取ることが大切ですが、なかなか難しいですね。
悲観主義者のように貯蓄し、楽観主義者のように投資する。最悪を予想し、最善を期待する。今日を生き、明日に備える。
第19章 欲と恐怖のライフサイクル
第20章 惨めになるお金の使い方
人生を豊かにするお金の使い方を考えるには、消去法を取り入れるとよさそうです。
うまくいくものを探すのではなく、うまくいかないものを減らす。それがおおむね、望ましい答えに近くなる。進化も同じように作用してきた。自然界では、うまくいかないものは淘汰され、残ったものが生き延びていく傾向がある。
惨めになるお金の使い方リスト
1.「もう少し上」を追い求め続ける2.自立ではなく、ステータスにお金を使う3.お金(を稼ぎ、使い、貯めること)を、自分のアイデンティティの中心にする4.収入の大半を使い込む5.「もっとお金があれば、あらゆる問題を解決できる」と妄想する6.お金は、悪やエゴの根源だと考える7. 極端な節約をし、自分の経済力に見合った豊かな暮らしを拒否する8.成功はすべて自分の努力の賜物であり、失敗はすべて不運のせいだと思い込む9.他人の表面的な部分だけを見て成功を羨む10.ある買い物によって生じるコストを無視する11.「将来、後悔するかもしれない」ということを考えない12.純資産の額を自分や他人の価値と結びつける13.お金に関する決断を、単なる数字の計算としてとらえる14.他人のアドバイスやライフスタイルに振り回される15.知っている中で、最も成功している人と同じ生活を夢見る16.収入よりも早く期待を膨らませる17.不要なものを手に入れるために、必要なものを危険にさらす18.高級品を持っていると周りから注目されると思い込む19.自分の考えを過信する
このリストの逆を考えてみました。
1.今ある、小さくて確かな幸せを味わう
2.ステータスではなく自立にお金を使い、実用性を追求する
3.お金と関係のないことを、自分のアイデンティティの中心にする
4.収入の一部を貯蓄する
5.お金で解決できる問題と、解決できない問題(敬愛、人間の本質、心地よい睡眠、生きがい、趣味など)を区別する
6.お金は手段で、便利な道具である
7. 自分の経済力に見合った豊かな暮らしを営むために、お金を惜しまず、贅沢はたまに行う(空腹こそ最高のスパイス)
8.成功は運によるものであり、失敗は勉強不足によるものだ
9.他人の多面性(複雑でなかなか厄介)に思いを馳せる
10.ある買い物によって生じるコストに気を留める
11.「将来、後悔するかもしれない」と考えてみる
12.純資産の額は、人の価値とは関係がない
13.買い物では数字の計算だけでなく感情・直感も重視する
14.自分の好みやライフスタイルを大切にする
15.「他人は他人、自分は自分」と線引きをはっきりとさせる
16.収入に見合う期待を抱く(夢や期待を膨らませすぎない)
17.要・不要を分けて、まず必要なものを手に入れる
18.高級品を持っていても、美しくなっても、周りから注目されるとは限らないことをわきまえる
19.いつも学ぶ姿勢でいる
第21章 運に恵まれたら、優しくあれ
お金がいかに厄介で複雑なものかを受け入れたとき、人は、必要最低限のほどよいシンプルさを大切にできるようになる。
世界は不平等だ。ーこれまでも、そしてこれからもそうだろう。人によって能力も不平等で、それ自体は良いことなのかもしれない。だが、「富=能力、知恵」と反射的に結びつけ、絶対視するのは危険である。
お金自体が素晴らしい人生を築くことはない。そのことを忘れないようにしよう。
序章では、カール・ユングの言葉が引用されています。
人間を幸福にする基本的な要素
1.心身ともに健康であること2.結婚、家族、友人関係など、個人的で親密な人間関係が良好であること3.芸術や自然の美しさを感じられること4.妥当な生活水準で暮らし、満足のいく仕事をしていること5.人生の浮き沈みにうまく対処できる哲学的・宗教的な視点があること
お金や赤の他人は 、私たちを幸せにする要素には入らないということです。
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