睡眠の基礎知識6 覚醒・睡眠に関係する物質と睡眠薬

 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長の柳沢正史教授は、睡眠・覚醒の調節を「ししおどし」にたとえられていました。


 睡眠・覚醒を「ししおどし&小鳥」に当てはめると、覚醒が続くのは竹の筒に水が流れ込んでいる状態で、睡眠はポーンと音がして筒から水が流れ出している状態、竹筒に少しずつ水がたまっていくのが覚醒で、水がたまりすぎて竹筒が倒れるのが睡眠です。
 覚醒の中枢は脳幹に、睡眠の中枢は間脳の視床下部の視索前野にあります。

覚醒に働く物質

グルタミン酸 アミノ酸、神経伝達物質、記憶や学習に関係、GABAの原料
アスパラギン酸 アミノ酸、神経伝達物質、記憶や学習に関係、GABAの原料
セロトニン モノアミン、神経伝達物質、気分や情緒の調節に関係、メラトニンの原料
ノルアドレナリン モノアミン、神経伝達物質、交感神経を活性化、意欲・集中力・記憶力・恐怖・怒りなどに関係
ドーパミン モノアミン、神経伝達物質、報酬系や運動調節に関係、アセチルコリンと拮抗
ヒスタミン モノアミン、神経伝達物質、集中力や覚醒を維持、アレルギー反応の原因
アセチルコリン コリン、神経伝達物質、注意力・集中力・記憶や思考などに関係、ドーパミンと拮抗
オレキシン ペプチド、神経伝達物質、覚醒を維持
コルチゾール ホルモン、血圧・血糖値を上昇 

睡眠に働く物質

GABA(γ-アミノ酪酸) アミノ酸、神経伝達物質、抗不安・催眠・鎮静などに関係、グルタミン酸・アスパラギン酸が原料
グリシン アミノ酸、神経伝達物質、抗不安・催眠・鎮静などに関係
アデノシン ヌクレオチド、神経伝達物質、眠気を誘発
メラトニン ホルモン、起床して14~16時間後に脳の松果体から分泌、睡眠を促進、セロトニンが原料


※神経伝達物質とは、情報伝達のために神経細胞同士が受け渡しする化学物質
※モノアミンはアミノ酸の構成成分でアミノ基を1つ持ち、ペプチドはアミノ酸がつながったもの
※アデノシン受容体はカフェインを受容するため、カフェインが入った飲み物などを摂取すると眠気覚ましになる

 個人的に思うのは、覚醒に働く物質から、睡眠に働く物質が生成されているということ。しっかりと覚醒するというのが、睡眠の大前提ではないでしょうか。
 睡眠の専門医に取材したときに、「昼間に家に閉じこもって、テレビを見ながらうとうとしていたら、夜に眠れないのは当たり前なんですよね」と言われたことがありました。「夕食を取って夜の8時には布団に入っていたら、そりゃあ、眠れませんよね」とも。

 太陽光を浴びて覚醒し、活動するから、夜は眠れる。
 腑に落ちますよね。

 睡眠薬は、依存や昏睡を防ぐようにかなり進化しているようで、同じく専門医から「寝酒するぐらいならちゃんと睡眠薬を飲んでほしい」と聞かされました。お酒は依存性があるだけでなく、睡眠の質を下げるからだということ。

 なお、睡眠薬は医師の診察を受けて使用することを強くお勧めします。患者さんの中には「よく眠れているんだけど、念のために睡眠薬を飲んでいる」という人もいたそうで、同じく専門医は「予防のために飲む薬じゃないんですよ」と話していました。

 若い頃のようには眠れなくなったシニアには、自分の睡眠状態に不満を抱いているかもしれません。「もっとぐっすり眠りたい」という欲求はありますよね。
 ただ、年齢を重ねれば皮膚にシミやシワが現れるように、睡眠も加齢とともに変化します。さまざまな研究データを知って、「こうあるべきだ」「こうじゃなければ嫌だ」というこだわり・思い込みをなくすことも、睡眠の質の改善に役立つのではないでしょうか。
 

主な睡眠薬

バルビツール酸系睡眠薬

GABA受容体に結合してGABAの薬理効果を増強する
商品名:ラボナ、イソミタール、フェノバールなど

ベンゾジアゼピン系睡眠薬

GABA受容体に結合してGABAの薬理効果を増強する
※ベンゾジアゼピンが発見された当初はその作用部位が不明だったため、仮に「ベンゾジアゼピン受容体」と名付けらえた
商品名:デパス、リスミー、レンドルミンなど

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

GABA受容体のうちω1という催眠作用を引き起こす受容体に選択的に作用し、ω2という筋弛緩作用をもたらす受容体には作用しにくい
商品名:アモバン、マイスリー、ルネスタなど

メラトニン受容体作動薬

メラトニンを模した作用を発揮して脳内のメラトニン受容体に作用する
商品名:ロゼレム

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシンの働きを低下させる
※依存性や認知機能障害のリスクが低減されている
商品名:デエビゴ、 ベルソムラ

メラトニン受容体作動性入眠改善薬

メラトニンが成分である
 ※6~15歳の小児期に限定
商品名:メラトベル

抗ヒスタミン薬

脳内のヒスタミン受容体に結合してヒスタミンの作用をブロックする
商品名:ドリエルなど

※アセチルコリンに関して補足
 コリンは、1849年にドイツの化学者のアドルフ・ストレッカー(Adolph Friedrich Ludwig Strecker、1822 - 1871年)が豚の胆汁から分離して、1862年にギリシャ語の胆汁(chole)にちなんで名づけられた物質です。
 アセチルコリンはコリンの酢酸エステル化合物で、1914年にイギリスの薬理学者・生理学者のヘンリー・ハレット・デール(Henry H. Dale、1875 - 1968年)が、アセチルコリンが神経伝達物質だと発見しました。そして、オーストリア・ドイツ・アメリカ合衆国の薬理学者であるオットー・レーヴィ(Otto Loewi、1873 - 1961年)は、2つのカエル摘出心標本を用い、迷走神経を刺激中に採取した心灌流液で別の標本の心収縮が抑制されることを示すなどの実験を行い、アセチルコリンが神経伝達物質だと証明しました。これらの業績で、2人は1936年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

■主な参考資料
第164回 より安全性の高い新しい睡眠薬が次々登場、嫌われ者の汚名返上なるか?

十三クリニック 睡眠薬のギモン(歴史から学ぶ)

哺乳動物における非神経性アセチルコリンの発現とその生理作用
Powered by Blogger.