5-4 欧米での保存的腎臓療法

 5-4 欧米での保存的腎臓療法

 アメリカやカナダ、ヨーロッパ諸国で保存的腎臓療法が早くから始まっていて、次のように定義されています。

「計画的,全人的で,CKD ステージ G5 の患者に対する,患者中心のcare であり,腎臓病の進行を遅らせたり合併症を最小化したりする介入治療を含むが,特に症状の軽減と,心理的,社会的,文化的,精神的支援を重視し,透析を含まないもの」

 この文言に登場する「全人的」は、ホスピスで生まれた概念だとされています。
 ホスピス(hospice)の語源は、ラテン語で「旅人」「客」「宿主」を意味するhospesだとされています。hospesからは、ホスピスのほか、病院(hospital)、もてなし(hospitality)、ホテル(hotel)といった言葉が派生しました。
 ホスピスは今から2000年前のローマ帝国にありました。疲れた巡礼者の休息の場がキリスト教修道院の慈善施設で、誰でも宿泊と食事ができました。ここで病人は手当てされ、治らないときには死ぬまで世話を受けました。

 「現代ホスピスの母」とされるのは、イギリスの医師であるシシリー・ソンダースはです。1967年にイギリスのロンドン郊外にセント・クリストファー・ホスピスを創設しました。ここからホスピス運動が広まっていきました。
 1950年代までは、「モルヒネなどの鎮痛薬は中毒になりやすくて危険である」と考えられていて、使用が控えられていました。それに対し、ソンダースは、患者さんの苦痛を和らげる緩和ケアを実践しました。こうした医療が「全人的医療(holistic medicine)」と呼ばれたのです。
 私たちが病気になって死にゆく過程で、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインという4つの苦痛を抱くとされています。

①身体的苦痛:病気や治療で生じる苦しみなど
②精神的苦痛:落ち込み(うつ状態)、不安、怒り、孤独感
③社会的苦痛:働けない状況、家族への負担、経済的な問題
④スピリチュアルペイン:人生や病気による苦しみの意味がわからない状態、死の恐怖、虚無感、自分の存在意義の不確かさ(「自分など生きる価値がない」など)

 身体的苦痛が精神的苦痛を生むなど、4つの苦痛は相互に影響し、全人的苦痛として感じるようになります。

 スピリチュアルペインについては、村田久行氏が「時間存在」(将来の夢や希望)、「関係存在」(他者との関係)、「自律存在」(自立性)という3つの存在の柱の喪失によって引き起こされるする「村田理論」があります。

 ただ、山崎章郎医師は「スピリチュアルペインとは、その状況における、自己のありようが肯定できない状況から生じる苦痛」「病気の有無にかかわらず、また死に直面しているかどうかにかかわらず、この世に誕生し、他者との関わりを持ち始めたときから、いつでも生じ得る」と述べていました。この点では、スピリチュアルペインという言葉ではなく、自己肯定感や自尊感情という表現のほうが、私たちにはしっくりくるように思えます。
 生きている意味がわからないという苦痛は、終末期だけではなく、健康な若い人でも持ち得る苦悩なので、医学的に介入する問題なのかは、大いに疑問です。
 今の時点での保存的腎臓療法は、欧米での取り組みを日本に持ち込んだばかりの状況なのかもしれません。



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